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03:採用試験1

 フェテル伯爵領の屋敷につくと、他にも面接希望者が集まっていた。田舎領主とはいえ貴族の専属執事になれるチャンス。そりゃ人も集まるか。


 だが元冒険者の俺は、その中じゃ完全に浮いていた。参加者のほとんどは都会育ちのお坊ちゃんって感じだ。きっと貴族とのコネを作りたい中流階級の子息たちだろう。


 俺が屋敷に入るなり、失笑の渦が巻き起こった。


「おい見ろよあいつ」

「ああ、まるで野蛮人だ」

「あれで執事なんてなれるわけねーだろ」


 そこまで言われる筋合いはない。俺は冒険者の中じゃ細身だし、本当に野蛮人みたいな奴はもっとすごい。


 が、彼らにとってはそうでもないらしい。金髪の若い男が歩み出てきて、俺の前に立ちはだかった。


「君さあ、困るんだよねえ。何を勘違いしたのか知らないけど、執事っていうのは優雅さと教養が不可欠なんだ。つまり僕のような高学歴じゃないとね。君、冒険者だろ?」


「元、だがな」


「だろうね。まったく、冒険者はおとなしく魔物を殺してなよ。そうまでしてフェテル伯の遺産が欲しいのかい?」


「遺産? 遺産ってなんのことだ? ただの執事が遺産をもらえるわけないだろ」


「い、いや……今のはだね……」


 なにか失言をしたらしい。他の連中の非難めいた視線が金髪くんに集まる。

 どうもきな臭いが、わざわざ探る気にもならない。面倒事はお断りだ。


「とにかく! おまえの存在は僕たち全体の印象にも関わるんだよ! 相応しくない者はとっとと出て行きな!」


「いや、相応しいかどうかは面接官が決めることだ。お前たちには関係ないだろ」


「ぐ……」


 正論を言っただけのつもりだが、なぜか顔を真っ赤にされて睨まれた。出て行けと言われて素直に出て行くと思ってたのか? いやいや、そんなはずないよな。


「まあいい……どうせ面接官がおまえを通すはずないんだ。馬車代の無駄だったな」


「かもしれない。まあ、お互いに頑張ろう」


「誰がおまえみたいな奴と!」


 ちょうどその時、奥の部屋の扉が開いた。

 背の高い美少女メイドが現れ、淡々としているがよく通る声で宣言する。


「今から面接を開始します。まず番号1番と39番の方、入室をお願いします」


 39番は俺だ。1番は先の金髪くんだった。彼は不満そうにメイドに詰め寄る。


「な、なんで最初に来た僕が最後に来たあいつと同じなんですか!?」


「不正防止のため、ランダムな順番にお呼びしています。ご了承ください」


「そ、そんなあ……」


「別に誰と同じでも構わないだろ。俺はコルト。よろしくな」


「誰がおまえみたいな低学歴と馴れ合うか!」


 部屋に入ると、中には他にも数人のメイドがいて、俺たちの動きを見ながら手元の紙に何事か書き込んでいる。

 審査はもう始まってるってことらしい。


「どうぞおかけください」


 椅子と机は粗末だった。というより屋敷の内装は全体的に粗末だった。もしかすると、フェテル伯はあまり裕福じゃないのかもしれない。


「本日はよろしくお願いします。わたくし、メイド長を務めますマリアと申します」


「コルトです。よろしくお願いします」


「モリアです。あの、マリアさん、このコルトって奴は元冒険者らしいんです。執事なんてできません」


 マリアが首をかしげる。


「それを判断するのは私です。なぜあなたが決めるのですか?」

「えっ……で、でも……」


 そりゃそうなるよな。どんだけ俺が嫌いなんだ。まだ何もしてないのに、人間関係は複雑だ。


「こほん。これからお二人にはある課題をこなしていただきます。その成果によってこちらで評価をつけさせていただきます。よろしいですね?」


「ああ、わかりやすくていいな」


「え、あの、職歴とか、学歴とか、聞かないんですか!? 俺は名門のサイイド学院出身なんですよ!?」


「経歴不問と事前にお伝えしております。それに、優秀な経歴の持ち主であれば、おのずと課題の成果に反映されるよう組んであります。ご心配なく」


 モリアがガクリと肩を落とす。

 なんにせよ俺にはありがたい。学校に行く金もなく、ずっと冒険者としてやってきた。学歴で評価されたら難しいが、能力で公平に評価してもらえるなら自信はある。


「では課題を説明します」


 そう言ってマリアさんは二つの皿を取り出した。どちらもよく似ている。それに高そうだ。


「執事の重要な仕事の一つに、フェテル伯家に伝わる貴重な品々の管理があります。特に先代国王から賜った家宝の皿は領主の証そのもの。その二つの皿を自由に調べて構いませんので、家宝の皿を見抜いてください」


「なっ……」


 モリアが言葉を失う。無理もない。二つの皿はどちらもかなりの高級品だ。この違いを見抜くのは至難の業だろう。


 皿を手に取り、前から斜めから必死に観察するモリア。


「なんだこれ……両方かなりの値打ちものだぞ……くそ、何かヒントがあるはずだ……ヒントが……」


 俺がその様子を眺めていると、マリアが口を開いた。


「コルトさんは調べなくてよいのですか?」


「ええ、もうわかったので」


「なにぃ!?」


 モリアが叫ぶ。マリアは相変わらず無表情で続ける。


「一応申し上げておきますが、課題は一発勝負です。後で後悔なさいませんね?」


「ええ。ところで一つ聞きたいんですが、この課題を考えたのはあなたですか?」


 少しの間彼女はおし黙った。その答えがヒントに繋がらないか悩んでいるのだろう。だが結局は教えてくれた。


「はい、私が考案したものです。それがなにか?」


「いやあ……ほら、ずいぶん性格のいい課題だなあと思いまして」


 率直な感想を述べると、マリアは一瞬にやりと微笑んだ。彼女が初めて見せた表情らしい表情だった。それはすぐに引っ込んでしまったが、俺はこの課題の答えについていよいよ確信する。


 一方でモリアは泣きそうになっていた。ほんの小さな傷でも見過ごしてなるものかと二つの皿を睨みつけている。

 が、マリアは無慈悲に打ち切った。


「では、ここまでとします」

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