2:器用貧乏
「い、今のは!?」
「ちょっと見てくる」
「は、はい! 気をつけて!」
外に出ると、ざわめく人混みの中で少女が倒れてるのが見えた。慌てて駆け寄ってみて、驚く。場違いに高貴なオーラ。たぶん貴族の令嬢だ。
「大丈夫か!?」
見たところ大きな怪我はないようだ。突き飛ばされて転んだだけか?
そう思っていると、少女が顔を上げた。長い黒髪に鳶色の瞳。かなりの美人だ。しかし全身がわなわなと震えている
「ひ、ひったくりに……わ、わわ、わたしの全財産が……! あや、あやややや……」
……かなり錯乱してるな。パンツが見えてるのにも気がついてないくらいには。
ま、ともかく事情はわかった。俺は【探査】のスキルを使う。これは普通【狩人】専用だが、全てのスキルが伸びる勇者なら、多少精度が落ちるものの使うことができる。
そして、ひったくりはすぐに見つかった。ケチなチンピラだ。
しかし手にしているバッグは宝石が散りばめられている。いや、そんなもの人前で持つなよ。
「俺が取り返してくる。そこでじっとしてて」
こういう時は【加速】の出番だ。本職の【魔術師】と違い、接近戦も得意な【勇者】なら最大限効果を引き出せる。
魔力が全身をめぐり、俺は一陣の風になった。目にも留まらぬ速さでひったくりの行く手を塞ぐ。
「なっ、てめっ、誰だ!?」
「通りすがりの冒険者……って二度目だな。バッグは返してもらう。悪く思うなよ」
「あっ!? いつの間に!?」
ものを奪うなら【盗賊】のスキルが使いやすい。盗みの技術も使いようだな。
それから俺は軽い当て身をひったくりに決めておく。これで誰かが憲兵に突き出すだろう。
自分でやれば報酬ももらえるんだが、目立つのは好きじゃない。こういうところが俺の悪いとこなんだろうな。
帰りは歩きでゆっくりと、黒髪の令嬢の元へ戻った。
「取り戻してきたぞ」
俺がバッグを差し出すと、彼女は信じられないというように目を見開いた。
「あ、ありがとうございます! でも、あの、ほんの数秒でしたよ……?」
「まあ、荒事には慣れてるからな。じゃあこれで」
「ええ!? もう行ってしまうんですか!?」
今はギルドに戻って手続きを再開しなくちゃならなかった。とはいえこの子のことも心配だ。手は尽くしておこう。
「そのバッグは悪目立ちするな。あまり人前にさらさないように。あと、この街は慣れない女性一人で歩くのは危険だ。こいつを連れて行ったほうがいい」
俺が手をかざした先に、半透明の霊犬が出現する。【精霊術師】のスキルだ。本職と違って派手さはないが、女の子一人護衛するには十分だろう。
「か、かわいい! あの、この子のお名前は?」
「名前? 考えたこともなかったな……まあ、好きに呼んでやってくれ」
「そう……じゃあ、ボボボ! よろしくね!」
……ネーミングセンスについては突っ込まないことにしよう。
「あの、ところでお名前を伺えませんか? いつかお礼がしたいので……」
「いや、俺は本当にただの通りすがりなんで。じゃあ、気をつけて」
「え、あの――」
俺はまた【加速】を使ってギルドの中に逃げ込んだ。どうにも人に恩を売るのが苦手なんだよなあ。
「あれ、早かったですね?」
リンが驚いて言う。壁の時計を見ると、まだものの一分とたっていなかった。
「いつものひったくりだった。じゃ、続きをやろう」
「あ、待ってる間に手続きは済ませておきました。あとは了承の魔力印をいただくだけです」
さすが若くてもベテランの受付嬢。俺は言われた通りにした。これで名実ともに俺は、冒険者から無職にジョブチェンジしたわけだ。
「それで改めてですが、これからどうするんですか?」
リンが心配そうに尋ねる。今やギルドとは無関係の俺にそうまでする必要はないのだが、彼女は根が優しいのだろう。
「とりあえず再就職だな。冒険者のように目立つ仕事はやりたくない。門番なんかがいいな」
「門番は衛兵ギルドの管轄ですが、冒険者ギルドと犬猿の仲なんですよね……たぶん、元冒険者のコルトさんは雇ってもらえないと思います。申し訳ありません」
「なんでリンが謝るんだよ。ま、いいさ。自分の面倒は自分で見るよ。今までありがとう」
「……はい。またいつでも来てくださいね」
俺は後ろ手に手を振りながら受付を後にする。と、依頼掲示板が目についた。ここには依頼以外にも仕事の募集チラシが張り出される事がある。せっかくだし覗いていくか。
「……うーん、なんだかブラック職場ばっかだな」
やっぱり斡旋所で探そう。そう思った時、一枚のチラシが目に留まった。
『執事募集! 経歴問わず。オールラウンダー歓迎。高収入お約束。明るく楽しいアットホームな職場です。面接希望者はフェテル伯爵領まで!(交通費は自費負担となります)』
なんてことのない内容。どちらかというと地雷臭がする。
だが、直感というやつだろうか。俺は妙に心をひかれた。
「執事か……」
もちろん経験はない。が、器用貧乏歓迎というのがいい。それになにより、執事は目立たなくて済む。誰かに尽くす存在だからだ。裏方気質の俺にぴったりだ。
問題は交通費自費負担ということ。フェテル伯爵領とはぶっちゃけ田舎だ。馬車代に貯金をはたかなきゃならんだろう。それでもし不採用だったら、かなりやばい。
「ま、悩んでてもしかたねえか」
俺は俺の直感を信じることにした。
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