1:追放
本日中にもう数話投稿します。
「コルト、今日でお前はクビだ」
【偃月の宴】のサブリーダー、ロイの宣言は唐突だった。
「いやいや、クビにするって、リーダーは俺なんだが……」
いつものように酒場に集まっていた俺たち。それがまさかこんなことになるなんて。
「新リーダーは俺だ。言っておくが、これはメンバー全員の総意だぜ」
「レナ、バッポ、本当か?」
二人は当然って感じで頷く。なるほど、全部事前に決定済みか。
「【勇者】のあなたはなにをやっても中途半端。魔法は【魔術師】の私に劣る。剣を使えば【戦士】のロイに劣る。回復も【僧侶】のバッポに及ばない。器用貧乏なの、あなたって。私たちはAランクなのに、Cランク相当のスキルしか使えないでしょ? 信じらんない無能だわ。それなら私たちのように、何かのエキスパートを雇った方がずっといい」
レナが鬱陶しそうに言う。俺は反論せずにいられない。
「たしかに専門職と比べれば【勇者】は劣る。だが、それは机上論だ。戦場とはさまざまな要素の絡みあう複雑なパズル。土壇場でモノを言うのは幅広い対応力だろ。なんでもこなせる俺がいたからこそ、このパーティはAランクまでのし上がれた。違うか」
「いやあ……それは違いますね」
バッポが丸メガネをくいっと押し上げて否定する。
「今や、僕たち三人のバランスは素晴らしくいい。未熟なうちは【勇者】も頼りになりましたが、もう用済みなんです。ま、僕に言わせればあなたは雑魚狩りでしかイキれないチキン野郎ってことです、今までお疲れ様でした」
「ってわけだ。あばよ、“元”リーダー」
「ばいばい」
取りつく島もない、というやつだ。
べつに俺はこんなパーティ辞めてもいい。しかし結成当初から苦楽を共にした関係だ。仲間だと思ってたのは俺だけだったのか?
それにこいつらの考えは甘すぎる。
たしかに特化パーティは、全員がうまくやってるうちはバランスもいい。だが、一人でも力を発揮できない状態になればすぐに崩壊する。
実際、今まで何度もその危機があった。その度に俺が対処してきたのを知らないのだろうか。少し甘やかしすぎたかもしれない。
とにかく、このままだとこいつらは危険だ。だが今それを言っても、負け惜しみと取られるだけだろう。
「……わかった。これはリーダーとしてお前たちの不満を見抜けなかった俺のミスだ。責任はとる。今までありがとう。頑張れよ」
俺は握手を求め手を差し出した。ロイはそれを握る代わりに唾を吐き捨てた。
「負け犬はさっさと消えな」
勝ち負けの話じゃないと思うが……。
とにかくこうして俺は、長年率いてきた【偃月の宴】をクビになった。
「……とりあえず、手続きだけでもしないとな」
俺は酒場の隣にある冒険者ギルドに入る。きっと来るのは今日が最後だろう。
「あ、コルトさん! お疲れ様です! 今日はどうされました? 【偃月の宴】宛の依頼、たくさん来てますよ! これもコルトさんの人徳と努力の成果ですね!」
受付嬢のリンが俺を出迎える。彼女とも短くない付き合いだったな。
「俺はクビにされたんだ、【偃月の宴】を」
「え……?」
俺が率直に告げると、リンは頭が真っ白になったのか数秒フリーズした。よくあることだ。のんびり再起動を待つ。
「ご、ごめんなさい、もう一度お願いしますね。変な冗談が聞こえて」
「俺はパーティをクビになった。今日は冒険者登録を抹消しに来たんだ」
「え……えええええええええええ!? な、何でですか!? 【偃月の宴】はコルトさんあってのAランクじゃないですか!」
「パーティのみんなはそう思ってなかったらしい。器用貧乏な【勇者】はいらないとさ」
「た、たしかに【勇者】はスキルの伸び率が他のジョブの半分です。でもその代わり【勇者】は全てのスキルが同時に伸びる。だから能力値の合計は同レベルのジョブの何百倍にもなるし、他のジョブのスキルも使えるから独自のコンボもたくさんあるし……そういうの、器用貧乏とは言えないと思うんですが……むしろ万能……ですよね?」
「俺もちょっとあいつらを甘やかしすぎたよ。俺が裏で支えてるのを知ったら重荷になると思ってたんだが、結局はあいつらに自分の実力を過信させただけだった」
「はぁ……。でも、パーティを抜けたからって冒険者まで辞めなくてもいいじゃないですか! コルトさんの力は必要です!」
俺は首を横に振る。
「残念だが、どこに行っても同じことになるだろう。もともとこういう性格なんだ。手柄とか功績を主張するのが苦手なんだよ、図々しい気がして。で、そういうやつは冒険者として成功しない。手柄が欲しいやつはたくさんいるからな」
「そうですか……私はそういう政治力みたいなものより実力の方が大切だと思いますが……でも、これからどうするんですか?」
「そうだな……。ちょうどこの前みんなの装備を更新してやったから金もないし、何か働き口を見つけないと――」
その瞬間だった。
「きゃあああああああああああ!」
ギルドのおもてから、若い女性の鋭い悲鳴が響いてきた。
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