8話
目を開けると目の前にはゆまりが見えた。
「ゆまり、待って!」
「ふふふふ」
俺の前を走っていくゆまりを追う。
でも、その姿は徐々に変わっていく。霧がかかって見えなくなった。
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再び目を開くと自分の部屋だった。
いつの間に寝てたんだ。
何か大事なことを忘れてるような...夢?
少し寝てスッキリした俺はリビングに駆け込んだ。
「おかーん!腹すいたー!」
「元気なこと、朝のことが嘘みたいじゃない。もう、困った子ね。」
なんて言いながら口元は少し笑っていた。
時計は午後の二時を指していた。
海の迎えは四時なのでおかんが急いでご飯を作ってくれた。
大盛りのカレーライス。俺の大好物だ。
むせそうになるほど勢いよくかきこんだ。
「おかん、ありがとな」
「普通のことよ!たいしたことないわ。」
おかんに気を使わせてはダメだ。明日はしっかり学校に行かないと。
ご飯を食べたあとも部屋にこもった。
最近読んでいなかった恋愛小説を久々に開いてみた。
俺はどちらかと言うとファンタジーの方が好きだ。
でも、この小説だけ違った。
心を動かされるそんな感じ。
昔から本は好きな方で常に本を片手に動いていた。
中学は部活に入らないといけない、俺はすぐに図書部に駆け込んだ。
でもそこはヤンキーの溜まり場と化していた。
「何突っ立ってんだてめぇ、なんか用か?」
「いえ、なんでもありません。」
弱くてひょろひょろだった俺には何も言えなかった。
そんなある日。
校庭で1人、サッカーの練習をしている嵐山 大成先輩を見つけた。
嵐山先輩は一生懸命ドリブルをしていた。
その姿におれは憧れた。
俺もあんな風に一生懸命になれるものはない。
気づいた時にはその先輩の前に立っていた。
「君は?」
戸惑いを隠せない嵐山先輩をよそにオドオドしながらだが言った。
「僕は...宮城 氷です。一生懸命になれるものを見つけに来ました。」
「はっ?...もしかしてサッカー部希望?」
「はい!」
それからは2人でパス練習やらゴールにシュートを入れる練習など色々な練習をした。
「1人だとこうゆう練習できなかったから嬉しい。ありがとな!」
「いえ!」
僕はどんどんサッカーにのめり込み筋力も体力もついてきた。
その後、2年になると1年が10人も入ってきた。
いよいよ本格的に練習を開始できた矢先だった。
あの事件が起こったのは...。
その時のことは今でも覚えている。
辛い過去。
でも、この恋愛小説はその事件の後に読み自分の心が動かされた。
少しは気持ちが軽くなり、違う気持ちも手に入れた。
今気づくとそれが俺の初恋だった。(子奈のことを好きと自覚した。)
好きとかじゃないとか見栄張っちゃうけど実際は...。
久しぶりに読んだけどやっぱりドキドキするな。
なんか初心に帰った感じ!
ゆまりともしっかり話さないと。
翌日。
朝、校門前でゆまりを見つけ話しかけた。
「ゆまり!あれから大丈夫なのか?」
「ああ、心配はしないでくれ。」
「ゆまり、なんか喋り方とか変えた?」
「いや、ないでもない。」
いつもの変な笑い方とか口調が全くなかった。まるで別人。
話しかけたはいいものの、どうしたらいいんだ。
でも、そんな話したことはないしほっといてもいいような気がする。
いや、何か、何かあるはずなんだ。
分からないが何かが。
こうなったら、とりあえず。
「心!」
「ど、どうしたの?」
「今日俺の家に来てくれ、前に俺の家に来たがってただろ?」
「そうだっけ?」
「とにかく来い!」
「あ、うん!」
放課後。
心を俺の家に連れてきた。
「おかん、友達来てるから飲み物は俺が持ってく。おかんは来るなよ!」
「なんでよ!友達が来たんならおもてなししないと!」
「いや、来なくていい。でも、どうしても来たかったらしっかりドアをノックしろよ!わかった?」
「はーい、わかりました!」
「じゃあ心、こっち来い。」
「あ、うん。」
俺の部屋に入りドア側に心、机を挟みベッドに俺が座った。
俺は何も言わずに少し考えていた。
心を呼んだはいいがどうしたらいいんだ。
「あの、氷くん?」
「あ、いやなんでもない。」
「え、何も言ってないけど...。」
「あ、そうだな、えっと...」
こういう相談したこと無かったから切り出し方分からねぇー
ゆまりのことが気になるんだけどどうしたらいい?
いやいや、これだとゆまりのことが好きなんだけどどうしたらいい?に聞こえるな。
「うーん」
「氷くん?そろそろ話してくれないかな。」
「ああ、わりぃ。えっと」
一か八か
「ゆまりって最近様子変だけどどうしたんだ?」
「あー、なんか火曜日に来た時には様子が変だったかな?暗いというか、そういえば口調が男っぽくなってたかな。」
「そっか...」
やっぱり、月曜の事と関係あるのか?
本人には聞けないしどうしたらいいんだ。