3話
「おかん、どうした?」
「う、ぐすっ、...お、お父さん、っ目が覚めて、う、うう」
「ほんと...、なのか...。」
「うん。う、うう。」
「今からすぐ向かうからっ!」
「...わかった。待ってるわ。」
ソファで寝てる海をもう一度優しく抱っこし、俺の荷物も持ち、俺達はつかまえたタクシーで病院に向かった。
慌ててて、忘れてたけどタクシーの料金っていくらなんだ。
ケータイで調べる。
初乗り730円くらいか?
そっから300メートルで90円ずつか?病院まで20分くらいだから3730円?
足りんな。
荷物から財布を出す。
俺の財布の中には1750円。
5000円払う覚悟で行ったけどぬいぐるみって高いな...。
しゃーない、おかんに払ってもらうか。緊急だったし、うん!
荷物から俺のケータイを取り出し、おかんに電話をかけた。
すぐに出た。
「もしもし、ごめん。タクシーで向かってるんだけどお金足りなそう。」
「う、ぐすっ、うう...。はっ、タクシーで来てるの!バスの方が安いでしょ!」
涙声で叱られた。
「いや、だって...海寝てるし、緊急だったからしょうがないじゃん!」
「はぁ...、もう、わかったわよ。」
「ごめんな、じゃあ。」
電話をきり、財布もしまった。
「お客さん、大丈夫?」
「あ、はい。一応...。」
「そうか。お嬢ちゃんを起こさないようにより安全運転を心がけるから。」
「あ、ありがとうごはざいます。」
そうこうしているうちに病院に着くと、おかんが財布を持って待っていてくれた。
俺は荷物を背中に背負うと、海をまたまた優しく抱っこした。
おかんは小声で
「次はバスで来て、本当に緊急の時はタクシーでいいけど。」
「今日だって緊急だろ!」
「ま、まぁ?」
涙目ではあり、そこまで突っ込めないけど、目線をめちゃくちゃ逸らされた。
タクシー代金を払ってもらい、タクシーを見送ると急いで中に入った。
おかんとともにおとんの病室に向かった。
おとんの病室に着くと、ドアを思いっきり開けた。
ガンッと壊れそうな音がしたが関係ない。(訳でもないが)
「おとんっ...。」
カーテンが風になびきおとんの顔を1回隠した。すぐに元に戻りおとんが笑顔で俺たちを見ている。
窓開けてんのか、カーテンの演出。
でも、おとん、ほんとに良かった。
おとんはバスの運転手で、その日も普通に運転していた。そんな中、お客さんの1人が酔っ払っていておとんがいる運転席に入ってきた。おとんは急カーブに突っ込み、おとんがブレーキをかけ、何とか下の崖に落ちずにすんだが、ブレーキをかけた反動で運転席にいた酔っ払いがおとんに突っ込んできた。おとんはドアと酔っ払いの腕で頭を挟み意識を失った。
それを病院からの連絡で知り急いで向かった。その時から、週一でおとんのことを見に来ていた。
それが今、3年越しに目が覚めて...。
「おとん、本当に大丈夫なのかっ。」
おとんは自分の近くに置いていたメモ帳を手に取ると、何かを書き始めた。
その腕は筋肉がなくなり骨と皮だけのように細くなっていた。
お見舞いに来る度に細くなり続ける体を見るのは本当に辛かった。
【俺はもう大丈夫だ。お前こそどうなんだ?】
「俺は平気だよ!めっちゃ元気」
普通に言ったつもりが涙声で、そんな自分に少し笑ってしまった。
3年も寝ていて、声が出しにくいので手書きで一つ一つ話をした。
3年の間に、俺がどんなことに挑戦していたとか、成績、友達、クラスの雰囲気とか色々。
そんなことを俺が話している間に起きたのか、海もおかんと一緒にたくさんおとんと会話を始めた。
「海ね、来年小学生なんだよ!」
【小学生か、早いな。】
「また明日来るから今日はこの辺でね。お父さん、また」
【お前も体調気をつけてな。】
「うん...。」
「じゃあな、おとん。」
「バイバーイ!」
涙目のおかんと元気な海を連れ、病院から出ようとした時、
誰かに腕を掴まれ、立ち止まった。
が、直ぐに手が離れ、どこかに逃げていく、パタパタというスリッパの足音が聞こえた。
誰かと間違えたのかとも思ったが一応振り向いて見た。
ショートカットの男の子か?性別は分からなかった。
少し不思議に思ったが、それ以上考えることも無く家に帰ると、海は誕生日プレゼントのウサちゃんを抱えソファに座った。
そんな海の嬉しそうな顔につられ、俺の口角も上に上がる。
俺の家のテレビは壁にめり込んでいて大きい。自慢じゃないけどな。
一緒にテレビを見ながら今日のことを話していた。
「そういや、心と何話てたんだ?」
「心お兄ちゃんと?えっとね、お兄ちゃんはどんな人なのかとか?」
「えっ!」
「他には好きな物とか、嫌いな食べ物とかいろいろ!」
「っ、へ、へぇーそうなんだ」
なんで話したこともないやつのこと知りたいんだ。最初のあの格好といい怖ぇな...。
でも、海の機嫌が治ってよかったな。改めて一応お礼でもするか。
明日は何かお礼、いや、家に呼ぶ、か...。
ピコンッ
持っていた携帯が鳴り開くと、クラスからのメールが来ていた。
"体育祭種目、各自だいたい決めといてください。"
下に添付してあったファイルを開くと種目が書いてある紙。
あー俺、運動好きじゃねーんだよなー
スマホを閉じ、お風呂に入ろうとお風呂場に行こうとソファをたとうとした時、海はウサちゃんを抱えたまま俺の足に抱きついてきた。
「どうした、海?」
顔を赤くしながら
「お兄ちゃん、ウサちゃんありがとう」
とモゴモゴと喋り、おかんの所へ走って行ってしまった。
可愛いー、そんなことを考えながらお風呂場に向かい鏡を見ると、鏡に映る俺の顔は口角が上がりきっていて気持ち悪く、変態みたいだった。
自分の顔にちょっとショックを受けながらお風呂に入り、ご飯を食べ、歯磨きまで済ませた。
「おかん、先寝る。」
「そう言って、夜更かししないでよ!」
「わぁってるって」
適当に返事をしスマホをもう一度取り出し見た。
体育祭か...。
あのイベント今度こそ。絶対に...。
借り物競争か障害物競走辺りにしとくか。
再びスマホを閉じ、ショートカットの子のことを考えてる間にいつの間にか寝落ちしていた。
ちゅんちゅんという鳥の声に目を開けると朝日が差し込んでいた。
何考えてたんだっけ?