1話 これから始まる?
廊下側の1番後ろの席の男、窓側の1番後ろの席の女この2人の物語。
その少し前。
「最近みんなの元気がないので席替えしまーす!紙取り来てー!」
教卓の下に隠してあった白い箱を取り出し、教卓の上にドンッと出した。
出席番号順のこの席はもう飽きたと思っていた頃に来た絶好のチャンス。俺、宮城 氷はぼっちを抜け出そうとしていた。
同じくぼっちの咲島 子奈。俺は、おさげとメガネを辞めれば人気が出ると思うんだけどなぁ。
1人ずつ紙を取っていく。
その様子をぼんやり眺めているうちに俺の番が来た。
前に行き、教卓の上に置いてある白い箱の上の穴から手を入れ、ゆっくりと取りだした。まぁ、出席番号順に並んでるこの席だと最後の方なので紙は少ないけど...。
開くと五番という文字。
黒板で席順に振られている番号を確認した。
五番の席は?
えっ。廊下側の1番後ろの席。
「うっしゃ!」
喜びが高まり教卓の前でガッツポーズをしてしまい。みんなの目線が一斉に俺に向く。耐えきれず真顔で(多分顔が赤いけど)、早足に自分のイスに座ると決まった席の移動が始まった。
俺、変なやつって思われたな...。
後ろの落ち着く席に移動してきて、先生に見えないように腕を前に出し伏せた。
早く帰りたいな。
隣をちらっと見るとクラス一のイケメン王子、中庭 秀。成績優秀、運動神経もいい、それに1番は顔がいい!俺もあんな顔なら良かったのに...。
もう少し俺が喋りやすそうな子が良かったなー。
そういえば、子奈はどこいったんだろ?
別に意識していないが辺りをキョロキョロと見渡した。
あ、いた。窓側の1番後ろ。
離れてるな...。いや断じて近くがよかったとか思ってないし!
隣は?、クラスのマドンナの杉鳴 夕か。成績はうーん、言いづらいけど運動ができて顔も美人。でも、喋り方がキツイのであまり友達はいない。
横を見ている俺と目が合ったと思っているのか秀が満面の笑みで話しかけてきた。
「あのさ、氷くん。よろしくね!」
王子様スマイルの眩しさに目を細めながら何とか首を縦に振った。
秀はキョトンとしたがすぐに笑顔になり俺を見てくる。
そんなに見るなよ。眩しいな。
そんなこんなで帰りのホームルームが終わった。
席替えしたはいいものの明日は土曜で来週から慣れろっていう課題付き。はぁっとため息が漏れた。
帰えりの支度を済ませ教室を出る。
明日、何するかを考えていたら誰かが後ろからぶつかってきた。
「いたっ、あ、えっと大丈夫ですか?」と振り向くと子奈が尻もちをついていた。
俺は生唾を飲み赤くなっているかもしれない顔をそらしながら、子奈に手を差し伸べた。
「ご、ごめんなさい。」
スカートを抑えながら、俺の手をしっかり握り立ち上がる。
前髪が長く顔は見えないが白い髪がとても綺麗でいい香りがする。女子だー!初めて話したー!しかも、子奈!
なんて、1人で舞い上がり自分の空間に入っていた俺を現実に戻すかのように言われた。
「あの、邪魔です。」
弱々しいが突き刺さるような言葉を残し子奈は昇降口に向かった。
俺は少しの間、石化したように固まった。
そ、そんなー...。
トボトボと昇降口に向かい、自分の下駄箱から靴を取り出しつつ考えていたら次は小さく、ふわっとしたショートカットの女の子がぶつかってきた。
「いてっ。」
「す、すみませ、ふふ。」
「謝るのか笑うのかどっちかにしろよ。ってかなぜ笑う。」
それになんでさっきから女の子とぶつかるんだ?
「ふふ、私はあなたの前の席の長達 ゆまりよ!よろしくねふふ。」
そう言いながら靴を履き替え、笑いながら歩いていく。
「おい、話が噛み合ってないんだけど。」
なんなんだ。高二の二学期、あまり関わってこなかった人。いや、クラスメイトみんなと話したことなんかあまりないけど話しかけられるな。
そんなことを思いつつ家に向かった。
考えることをやめようと家までに何本電柱があるか数える。
21、22、23、家の近くにあと3本くらいあったかな?
そのまま、T地路を左に曲がった。
家の目の前。帽子、サングラス、マスクといかにも怪しい男が俺の家を凝視してる。
はっ、なんで?あれって…俺と同じ学校の制服か?
人の気配に気づいたのかこちらを見た途端尻もちを着くほど驚いていた。
とりあえず、話を聞いた方がいいのか?
ちょっと怖いが少しずつ近づき話しかけた。
「え、えっと、どちら様ですか?」
「ぼ、僕は神並 心です。」
「誰?」
思いっきり聞き返してしまった。
心はビクビクしながら言った。
「氷くんの列の1番前の席です...。」
同じクラスかっ!俺どんだけ覚えてないんだよ。
ってか、マスクとかしてんのがわりぃじゃん。うん、そうだよ!
「じゃ、あの、また」と言い残すとその場から逃げるように走り去った。
今日はどうしたんだろう。クラスメイトとこんな交流今までなかったんだけどなー。
モテ期か?いや、男もいるからそれはないか?たまたまということで...。
自分の中で完結させ、ひとまず家に入る前に深ーい深呼吸をしドアを開けた。
「ただいまー。」
「おかえりー!」
その声とともに真っ先に妹の海が足に抱きついてきた。
はぁ、ほんと可愛いこれ以上大きくなるなよ。と言いたくなる。
来年、小学生か...。お兄ちゃん心配だよ。
「氷ー帰ってきたんならさっさと手洗ってー。」
おかんがキッチンから言う声が玄関から続く廊下に響く。目の前の階段の左側にあるドアを開けると洗面台。手洗いとうがいを済ませ反対側のドアを開きキッチンとリビングがある部屋に入っていく。
リビングにある緑色のカタカナのコ型のソファに腰をかけ海を膝と膝の間に座らせる。
まじで可愛い、天使だー!癒されるー!
壁にめり込んでるタイプのテレビを見ているとそんな様子をキッチンから覗くオカンは微笑ましく思っているようだった。
「ご飯できたから椅子に座って!」
「はーい!」
海は元気な返事とともに、俺の膝の間から抜け出しキッチンの前にあるダイニングテーブルにのるご飯をキラキラした目で見ていた。
まだ小さく座れないので俺が隣りに座らせ、自分も座ると海が目を輝かせていた理由がわかった。
今日のご飯は海の大好物のバターライス。
今日なんかあったっけ?
それを見透かしたようにオカンはニヤッとした。
「今日は海の誕生日でしょ!覚えてなかったの!酷いお兄ちゃんだわ」
「はっ、今日の出来事ですっかり忘れてた。」
本当に忘れてたが言わなければよかったなと後悔した。
横にいる海を見るとみるみる涙目になりプイッとそっぽを向いてしまった。
何やってんだよ俺、天使の笑顔が...と肩を落とし機嫌を直してもらおうと誕生日プレゼントを買うことにした。いつもは帰り道で買ってくるのを本当に忘れていた。すまない海。
「ごめん、機嫌直してくれ誕生日プレゼントなんでも買ってやるから...。」
椅子から立ち上がり誠心誠意の土下座をした。
「海の欲しいもの買ってくれるの?」
「そうだぞ、なんでもいいぞ。」
「やったー!明日、買い物ー!」
笑顔になった海を見て心底ほっとした。
ご飯を食べる海は嬉しさと悲しさがある顔をしていた。