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雨にぬれた靴

作者: 天野 進志

  雨にぬれた靴



 天気予報は、雨だった。


 私は手持ちのカバンをかざし、小走りに近くのカフェに逃げ込んだ。


 まさかこんなに降るなんて、思ってもいなかった。


 ツイてないや。


 「ひどい雨でしたね。大丈夫でしたか」


 適当な席に座ると、注文を聞きに来た若い店員が、心配そうに声をかけてくれた。


 よほど濡れていたのだろう。


 これで拭いてくださいと、はにかみながら乾いたタオルを貸してくれた。


 いいお店だな。


 戻っていく店員の背中を横目で見ながら、私はそのタオルを使わせてもらった。


 店は一昔前の雰囲気だったが、店員と共に感じは良かった。


 ぐちゅ


 そんな事を思いながら服を拭いていると、足元で音がした。


 濡れた靴の、いや、靴の中の音だ。


 ぐちゅ ぐちゅ


 足の指が動くたびに、妙に生々しい音を出す。


 一瞬、ぞわっとしたが、すぐに懐かしさに変わった。


 あ、この感じ。


 「お待たせしました」


 さっきの店員が熱いコーヒーを持ってきて、一緒にタオルを新しいものと交換してくれた。


 「ありがとう」


 私はちょっといい顔で、店員に笑いかけた。


 コーヒーを手にして、私は少し思い出した。



 小学生になったばかりの頃、私は雨が降ると、決まって靴をぬらして帰っていた。


 靴の中に入った冷たい雨が、だんだんと生ぬるくなってくる感じ。


 歩くたびに、ぐちょぐちょと鳴る音。


 そして、その感覚。


 それが面白くて、楽しくて。


 雨のたびに靴をぬらして帰る私に、母はあきれたり、怒ったり。


 ある日、雨が降りそうな日に長靴を履かされたが、わざわざ学校の水道で水を入れ、ぬらして帰った。


 長靴は普通の靴と違って、水が中にたまり、あまり気持ちよくなかった。


 それで母に叱られたのと、気持ちよくなかったのとで、それ以来長靴の中は、ぬらさないようになったし、あまり履かなくなった。


 中学生にもなると、雨の日に靴をぬらすのは面倒になったり、はずかしいのとで、水たまりは避けるようになっていった。


 そして気が付けば、雨が好きでは、なくなっていた。


 そんな私と付き合った男の子は、雨が大好きだった。


 雨は風流だ、なんて言っていた。


 雨にぬれた景色、窓から見る風情。


 家の前に打ち水をすると、けっこう水と時間が必要なのに、雨が降れば一瞬で、しかも打ち水が出来ないビルの屋上まで、街全体が濡れる。すごいだろ。


 そんな話を雨が降ると、何回か言ってたっけ。


 でも雨の日、外に出るのは嫌がってたな。


 靴に水がしみて気持ち悪い、って理由だった。


 私と似てるのに、全然反対のこと感じるんだって驚いたな。


 あいつ、今頃どうしてるんだろ。



 足の指を動かすたびに、靴の中でくちゃくちゃ音がする。


 雨は小止みになった。


 靴の中の雨も、温まってきた。


 子供の頃に戻ったみたいだ。


 足の指が喜んでる。


 このままぬれて帰ろう。


 水たまりに入って、もっと靴をぬらしてしまおう。


 あの頃の私に戻るのも、悪くない。

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