肆之弐拾参 モブ、寅吉三番の詳細を知らされる
「そんで茹で卵さんよ、どこで何してたんだ?」
「帰ってきたんやからそない言わんといてえな、僕が上総掘りの普及で全国行脚してたんは知ってるやろ?」
「かず、さぼり?」
「上総掘りなんて七海は知らねえよな。その説明の前にこの多聞の来歴を先に教えるわ」
平賀さんがこの関西弁お兄さんの寅吉のプロフィールを教えてくれるらしい。どうせなんかの専門家なんだろうけど。
「こいつは専門家というよりは、しいて言うなら地学と治水のアドバイザーだな。吉宗公の治水や利水政策はこいつの案が元になってるのが多い」
ほー、すげえな、この胡散臭い糸目の関西人。でんがなまんがな。
「そんで幕府のアドバイザーやってないときは鉱脈探して山を彷徨ってる」
ん?
「造山活動があっちとだいぶ違うんだってさ、こっちには未知の鉱脈が随分あるらしいぜ。ひたすらダウジングで山の中歩き回ってる怪しい人物だ」
んん?
「んでめぼしいヤマ見つけたら上総掘りで掘るんだとさ。まあ山師だな」
んんん?
山師って詐欺師、みたいな感じの言葉じゃなかったっけ? 平賀のおっさんだけでも胡散臭いのに、まだこれ以上胡散臭いの増えるのか。俺も含めて寅吉って駄目な人間ばっかじゃん。
ところで上総掘りってなに?
「あ、そうだ、上総掘りだけどな、人力でできる効率いいボーリングの技術だよ。球投げる方じゃなく、竪穴掘るやつな。本来なら明治に開発される技術なんだけど鉱脈掘りや井戸掘りに使えるから、この三番が普及キャンペーンしてるんだよ」
「技術の普及と鉱山開発を同時進行ですか、そりゃ帰って来れませんね」
「鍛冶屋がいれば成立するんだよ、上総掘りは。どこにでも野鍛治ぐらいはいるしな」
つまり教えたら簡単に再現できる技術ってことかな。こっちの人たち、みんな器用だから教えやすいんだろうか。読み書きできる人多いし。
お江戸だと読み書きできない人はまだ見てないくらいだけど、首都だから教育水準が高いから識字率が高い、とも単純に言い切れない。出版物のバリエーションから見ても江戸だけで消費されるものだとも思えない数がある。本も本屋もホント多いんですよ。
例えば種蒔きのカレンダーと指南書……教本が一緒になった農業の教科書「百姓往来」なんてものが何種類も流通してる。江戸の近郊がお百姓さんばかりだとしても、こんなに種類いらないし、なにより他の商売の教科書も沢山ある。
手習で使う教科書も仕事の種類に合わせて何種類かある。
あ、手習ってのはいわゆる寺子屋のことで、武士階級の人が教師やってることも多いから「〜屋」と呼ばれることを嫌って手習師匠、と言うらしい。
この辺はお妙さんの授業で教えてもらったお江戸の常識です。
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