肆之弐拾弐 モブ、寅吉三番と相見える
……また入院してます。
真言の詠唱が満ちる閉じた空間で、互いを貪る男女、そして激しく求め合い、肉をぶつけ合うむくつけき坊主共。
「おえっぷ」
想像したら気分悪くなってきた。
「平賀さん、そんな気持ち悪いこと聞かせないでくださいよ」
「いや、お前さんが聞くから話したんだが……まあいいや、彼法ってのはそういう集団だよ。今回の首盗人にしてもなんか目的があるはずだが、なんにせよ俺らには理解できねえわな」
問題は目的だよね。恨みのこもった髑髏を使って望みを叶えるつもりであり、その望みは幕府にダメージを与えることであろうと大僧正は予想している。徳川政権打倒とかだろうか。
さて、話がそこまで大きくなると、一庶民の寅吉である俺にできることは何もない。はずである。はずであるが……。
「天海よ、事態は穏やかでなさそうだ。猫にできることはあるか?」
なぜか猫神使がやる気になってる。
やめてくださいよ、かなり危ない相手のようですよ、あなたどう見てもバトル向きじゃないでしょ、ケガしたらどうするんですか。どうしてもやるなら俺が帰ってからにしてくださいましな。
「やるのか? やるのじゃな、天海?」
いつの間にか来てたキツネが腕をまくってシャドーをかましている。キツネ、いつ来たんだよ、そんで何するんだよ。お前も戦闘向きの神使じゃないだろよ、いつも大僧正にボコられてんじゃん。
「ぴっ! こちらで彼奴らの尻尾を捕まえた! 尋問するのでしばしお待ちあれ!」
ああ、鳥さんまで戦闘モードに。なんで急にみんなやる気になってるの。
え? 敵を捕まえた? 今から尋問するの?
「皆、まずは落ち着け。京の土御門が彼法の尻尾を掴んだようじゃ、続報を待とうではないか」
「大僧正はいっつも慎重でんなあ、兵は拙速を尊びまっせ」
誰? 見たことない関西弁の青年がいつの間にか部屋の中に座ってた。
「お、茹で卵の多聞じゃねえか、いつぶりだ?」
「まいど平賀さん、お江戸の蕎麦が懐かしゅうなって帰って来ましたで。ところでそっちのお若いのはひょっとして?」
セリフの後半は俺を見てる。ホントなんなのこの人。
「こいつは七番の七海だ、対の八番もとっくにこっちに招ばれてるよ。七海、こいつぁ『地の寅吉』こと、寅吉三番の多聞だ。人呼んで茹で卵の多聞」
「なんで茹で卵?」
「出ていったら戻りゃしねえから『孵らず』とかけて茹で卵。卵は茹でたら孵らねえだろ?」
こういう洒落を「地口」って言うんだってさ。江戸の人ってすぐ洒落を言うのに、わかんなかったら失礼にも野暮天扱いしてくる。勝手に言ってくるのに聞き返したら野暮なんだとさ。
恐れ入りやの鬼子母神だの、麻布で「木」が知れぬだの、お江戸初心者にはわからねー言葉ばっかりです。
ところで寅吉三番さん? は何しにいらしたの?
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「ぶっくまーく」などもお気が向きましたらお願いいたします。
評価をいただければ、七海が喜んで通報をものともせずに五体投地でお礼に参ります。




