肆之拾捌 モブ、彼法をどこで聞いたか思い出す
その後、近所に干物配ってたらようやっと平賀のおっさんが現れた。暇そうにしか見えんが仕事はいいんだろうか?
「あ、平賀さん、さなかなが伝言あるそうですよ、聞いてあげて」
「あの双子か。七海も着いてきとくれ」
「なんで俺も?」
「あいつら人見知りして俺には話してくんねえんだよ。お前さん、あいつらと仲いいだろ?」
仲いいというか、軽口は叩かれる間柄ですね、なんであいつら人見知りのくせに大道芸人なんてやってんだろ。平賀さんもよくこの長屋に来てるのにまだ慣れてないのか。めんどくさいな、あいつら。
「土産や差し入れもそこそこ渡してるはずなんだがなあ……」
人見知りにそんな常識は通じないんじゃないでしょうか。野良猫みたいなもんですよ、アレらは。
平賀さんと一緒にさなかなの部屋まで行くと、七輪を準備してた二人が飛び上がって俺の背後に隠れた。
「七海、なんでこのおっさん連れて来たの? 長屋の店子でもない人を女子の家に連れて来るとか頭おかしくない? さすが引きこもり、常識がなさすぎて怖いね、さな」
「こんな事にならないように伝言頼んだのに、七海の浅はかさは九十九里浜並み。お使いのお使いぐらいはこなしてほしいね、かな」
「いや、お前ら平賀さんと面識あるだろうが。人見知りを俺のせいにすんな、ほれ、親方の伝言はどうなった?」
ふと見ると何故か平賀さんが地面に突っ伏していた。
「そうか、そこまで俺は嫌われてたか、そうか、そうか……」
こういうの見たことある。野良猫に餌やって、手懐けてたつもりが全く懐いてなくて威嚇されてた餌やりおばさんがこんな感じだった。だめだよ、野良猫は完全にリラックスできる相手と環境じゃないと基本的に威嚇してくるよ。
「ほれ、平賀さんに謝れお前ら。ちっとは世話になってんだろ? それに大僧正と繋いでくれてるんだろ? 表面だけでも仲良くしとけ」
双子の首根っこを掴んで平賀さんの前に差し出す。バタバタと嫌がるがしばらくすると諦めたのか、
「「……お役目ご苦労様です。大変失礼しました」」
なんとも社交辞令風に謝った。謝らないよかマシだよね。
「いやいや、気にすんな。で、伝言てのは?」
「「上方の彼法に動きあり、と」」
「放下が掴んだネタかい? 河原者経由の情報かね?」
「そこまでは…」
「わからない…」
「ん、わかった、ありがとな。大僧正に伝えるわ。お前らの親方にも確かに平賀が取り次いだと伝えとくれ」
「「了解です」」
二人から手を離すと、急いで七輪ごと物陰に隠れた。この状態で干物焼くつもりか、こいつら。
「思い出した! 彼法ってアレだ、衛人が危ない奴だって話になった時に日照さんが『彼法』よりマシって言ってたやつだ!」
「一般的には真言立川流って言われてんだけどな、何しろ危ない連中なんだわ」
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評価をいただければ、七海が喜んで通報をものともせずに五体投地でお礼に参ります。




