肆之拾漆 モブ、土産の干物を配ろうとしたらまた機密っぽい話が出てきた。
「おや七海、早い戻りだの」
「ちょっと伊豆まで行ってきました。八番達は紀州まで行くそうですよ」
船のわがまま聞いて和歌山まで行くってよく考えたら変な話だな。
俺もついていって船内キャバと洒落込もうかと一瞬思ったけど、さすがにしょんぼり神官さんの体内(?)で無遠慮にキャバれないだろうから帰ってきた。いや、頑張れば船内キャバもイケたか?
俺がもう少しだけ非常識寄りなら楽しめたんだろうけど、ここは順当な判断だったんじゃなかろうか。
「あの、なんと言ったか、ここによく来る寅吉が来ておった」
「平賀さんですか?」
ここに来る寅吉なんて二人しかいないし、一人は和歌山へ船の旅の最中だ。
「猫は話しておらぬが娘が応対しておったゆえ知らせておく」
「わかりました、お妙さんに聞きますね。知らせてくださってありがとうございます。あとで伊豆のお土産の干物出しますね。ところで猫神使って人が食べるような塩の効いたものって大丈夫ですか?」
「塩干ものなら気にせずとも良い。猫の体に病は宿らない。それにしても伊豆の干物とは七海も気がきく。褒めて遣わす」
安宅丸の船魂を探して歩いてたら美味そうな干物屋を見つけたんだよね。そしたらなんか義務のようにお土産買ってた。どこそこ行ったから、って、そこの名物くれる人が多いんだよ、このお江戸。いつかお返しを、と思ってたからちょうど良かった。あ、次郎吉さんは魚屋だから受け取ってもらえるかな? 干物は別カウント扱いかな?
それにしても、また平賀のおっさんが大僧正絡みの話でも持ってきたんだろうか。俺に出来ることなんて何もないって、いい加減覚えて欲しい。
「七海、たまにはお外出なよ。ねえ、さな」
「引きこもって稼いでるのは自立したとは言わないよ。ねえ、かな」
「なんだ、さなかな。居職のレゾンデートルを全否定してんじゃないよ。座って稼いで買い物にも出なくて済むから居職やってんだよ。それにさっきまで伊豆にいて渋谷から帰ったとこだよ」
赤いぱっつん髪がさな、青いぱっつんがかな、人見知り大道芸ロリ双子姉妹という属性てんこ盛りの上、2人ともミニの着物にスパッツみたいなの履いてて目立つことこの上ない。
色々とおかしなこのお江戸でもダントツでおかしい存在なのは間違いない。まだ俺の方が馴染んでるくらいだ。
「さっきまで伊豆にいて今ここにいるわけないじゃん」
「引きこもり過ぎて距離感がおかしくなったのかな? かな?」
ああうぜえ。天狗とか色々あんだよ、お前らも笠置の乱破出身なら言えないこととかあるのわかるだろうに。
「そんで人見知りどもがうちになんの用だ?」
「そうだ、うちらの親方から伝言があるんだった」
「お前らの親方って大道芸人の元締め?」
「ううん、元締めは幕府組だから。うちら放下の親方からの伝言だよ」
「寛永寺の上へ繋いでほしい、上方の彼法どもに動きあり、だってさ」
「よくわからんけど平賀さんが来てたっていうし、話しとくわ。返事はさなかな宛でいいんだよな?」
「「問題なし」」
「そうか、じゃあ干物でも選んでけ。伊豆のだからうめーぞ」
「まだ伊豆の話するんだね、かな」
「ここは付き合ってあげよ? さな」
「そうだね、干物は美味しそうだもんね、かな」
「干物に罪はないよ、このカマス美味しそうだよ、さな」
「うるせえ、とっとと選んで持って帰れ」
「「きゃー」」
ぱたぱたと帰っていく双子。あ、ちゃっかり一番いいエボダイ持って帰りやがったな。大丈夫です猫神使、まだあるからそんな悲しそうな顔しないで。ほら、エボダイがいいですか? それともカマスですか? 俺的大本命のホウボウは隠しといて良かったぜ。
「猫神使、彼法って知ってます? なんか聞いた事あるような気がするんだけど」
「淫祠邪教の類、としか知らんの。仏門が詳しかろう」
どこで聞いたんだったかなー。
お急ぎでない方、毛色の変わった此の物語をまだ読んでも構わぬとお思いの方、向後に期待してやろうという方、よろしければ更に下にスクロールして広告下の白星を「ぽちっと」押してやってくださいませんか。
「ぶっくまーく」などもお気が向きましたらお願いいたします。
評価をいただければ、七海が喜んで通報をものともせずに五体投地でお礼に参ります。




