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このEDOはフィクションです  作者: 石依 俑
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肆之拾伍 モブ、なんの因果か引きが強い

 そんなわけで衛人パーティと伊豆へ行くことになりました。

 俺はもちろんモブなので着いて行く形です。モブなのにすいやせんね、ちょっくらお邪魔しますよへっへっへ、というようなモブムーブも忘れない。


 なに、伊豆へ行くなら最低でも一泊は必要だろう。ならばその夜に宿でキャバればいい。うっひょー。


「ここらでいいかしらあ」


 あの、クマラさん、街道じゃなくめっちゃ山に入ってるんですが、これでいいの?


「ここからは天狗の踏み跡に入るからあ、ナナくんは手を握っててねえ」


 なんですかそれ、分かりませんけど、手なら握りますよ。むしろ入念にニギニギさせていただきますよ。

 妙なステップを踏んでからクマラさんが藪に突入なさる。ガサガサと入る感触があったと思ったら海の見える山の中にいた。え? これ江戸湾じゃないの? 伊豆半島なの?


「これが天狗の踏み跡よお。日本中に張り巡らされた、天狗の認めたものしか通れない道なのお」


 天狗、万能かよ。反閇へんばいがどうのとか、禹歩うほがこうのとか説明されたけど、それよりも俺の宿場キャバプランが台無しじゃないですか。


「これを人から見たら神隠しになるわねえ」」


 神隠しの真相がここに!


 伊豆に着いて実際の安宅丸を見て驚いた。大きさこそフェリーや豪華客船、イージス艦や護衛艦という名のヘリ空母を見てきた俺からすると物足りないが、この時代でできる最高のものだということがよくわかる。こりゃすげえ、マジ昂ぶるってもんですよ。なあ衛人、これはいいものだぞ。立体映え半端ねえ。


「なんで七海さんがそんなに興奮してるのかわかりません」


 え、なんで。船の上に天守閣だぜ。こんなのプラモにしたらすげえカッコいいぞ、珍プラモ間違いなしだ。ア○シマなら出すかな?塗り分けが地獄の作業になるだろうな、これは魂震えますわあ。

 塗り分けが地獄と言ってるモデラーの9割はニヤけながら喋ってることだろう。こういうところにこそ丁寧な作業や実力の差が現れるのだ。別名マスキング地獄ともいう。


 ウォーターラインにするよりもフルハルの方がきっと絵になる、このボリューム感を見せないのはもったいない。


 ちなみに浮かんだ船の水線上の姿がウォーターラインモデルで、乾ドックで見るような船全体の姿がフルハルモデルである。基本用語なので覚えておいて欲しい。俺は船の模型は作らないけど。

 そんな風に感動していたら、


「ふむ、お主、見どころがあるような、ないような」


 ちんまりとした神主さんみたいな子がいた。

 あ、これ巻き込まれるやつだ。俺の面白ホイホイに引っかかったやつだ。さすがに何回も経験したからわかりますよ。


「俺は宇野七海と申しますが、ひょっとして貴方は?」

「人には安宅丸と呼ばれているような、ないような」


 あ、当たりだわ。おーい、安宅丸の妖精みたいなのが出たぞー。


「七海さん、当たり引きすぎでしょう…」

「ひょっとしたらと思って連れて来たけどお、覿面ねえ」

「これ便利過ぎて慣れたらダメになりそうねー」

「自分なんなん?占術や巫術より正確で結果的に早いってホンマなんなん?」


 モブ、よくわかんない。さあ頑張れ主人公。説得でGO!


「安宅丸さん、あなたは上様の御座船なんですよ。お役目を全うしてください」

「いやだ」


 えらくキッパリとした拒絶。なんでいやなんだろね?

 イラッとした様子のエイトが刀の柄に手を伸ばそうとする。いかん、実力行使の脳筋馬鹿が説得を忘れてる。そもそも刀抜いてどうしようってんだ。

 なんでこいつ、こんなに幕府に忠実なんだろね?なんかいい餌でももらったのかね。俺もいい餌ほしいです。


「武士道とは死ぬことと見つけたり、ですよ。主君のために粉骨砕身する、まさに侍の生き方じゃないですか」


 あー、半端に葉隠を読んで厨二入ってるやつだったか。こいつ将来ブラック企業で便利に使われそうだな。今もあんま変わらないか。

 まあ生き方は自由だ。でも俺らこっちじゃ死なないよ?それよりお役目が大事じゃない?


「エイト、お前の役目は説得だろ?落ち着けビークール、ビークールだ」


 なんでモブが主人公に説得させるための説得をせねばならんのか、面白ホイホイもいい加減にして欲しい。恨みます、どなたか知らんことになってる神よ。


「安宅丸さん、江戸はおいやですか?」


 埒があかないので、俺はちんまり神官にそう尋ねる。脳筋衛人は向こうでお姉さまの方にお説教食らってる。こぞってお叱言もらうとか羨ましいぞファッキン。


「我は紀の国の霊木であったような、なかったような」


 ちんまり神官さんがなにやら問わず語りを始めてらっしゃる。人の話聞かないのは妖怪で慣れてるから大丈夫。慣れるなそんなもん、とは思う。


 長い話をまとめると、霊木として長らく山にいたのを切られ、長い材に加工され、船として組み上がっていくにつれ、次第にはっきりと自我が目覚めたという。

 紀州の霊木って最近聞いたな。スライムちゃんの器にしたのもそうだっけか。

 ひょっとしてあれって安宅丸の余った部材だったんだろうか。

 守っていた紀州の山から遠ざかるにつれ、帰ろうとしたが、悲しいかな、船となった体は操られるまま、ここまで来てしまったと。


「故郷忘れじの悲しみのあまり、夜毎泣いていたような」

「それ、僕らが調べに来た安宅丸の夜鳴きです。なんでも夜になると軋み泣くんだそうです」


 霊木が船になり、名をつけられたことで霊格が上がり、気がつけば魂精が人の形をとっていたという。お姉さまトリオがなるほど、と頷いてらっしゃる。モブにはさっぱり分かりませぬ。


「船はねーあの世とこの世を繋ぐものなのー」


 急にどうされました、日照さん。


「刀や船の名前に『丸』がつくのが多いのはねー、鬼と同じで童子名なのー」


 ますますどうされました。


「頭悪いねーまあ仕方ないよねー」


 ケラケラ笑う日照さんの話を詳しく聞くと、船も刀も鬼も、あの世とこの世の境を象徴するという。そういうものに名前をつけるには、人間にとって身近な生と死の境、童子名、つまり子供の名前で表わすのだと。


「衛人どうしよう、俺は全くわからん」

「奇遇ですね、僕もわかりません」


 まあいいや、それで安宅丸さん、あなたはどうされたいですか?


「この身を現世に顕現できたのならば、せめて紀州に別れを告げたいような」


 一度故郷に帰りたいと。ふむ、クマラさん、天狗の踏み跡でなんとかなりませんか?


「実体は船の方だから、船魂だけ連れて行くのは残念ながら無理ねえ」

「そうですか。だってさ、衛人。このちっさい神主さんと一緒に和歌山まで行っといで」

「え、なんで?」


 いや、この方の望み叶えたら説得できるかもしれないじゃん? なら和歌山に御一緒してから、改めて江戸へお迎えしたらいいんじゃないの? てか、それ以外に手はあるの?


「……ないようです」

「それじゃ俺は帰りますね。クマラさん、すいませんが、天狗の踏み跡の案内お願いします」

「え? え? 帰るのお?」


 根付の納品がありますからね、居職はこれで忙しいんです。キャバれないなら長屋に帰って作業しますよちくしょう。

 お急ぎでない方、毛色の変わった此の物語をまだ読んでも構わぬとお思いの方、向後に期待してやろうという方、よろしければ更に下にスクロールして広告下の白星を「ぽちっと」押してやってくださいませんか。


「ぶっくまーく」などもお気が向きましたらお願いいたします。


 評価をいただければ、七海が喜んで通報をものともせずに五体投地でお礼に参ります。

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