壱之玖 モブ、根付を知る
「まあ長屋や生活に関しては明日で良かろう。昼餉でもすませようぞ」
大僧正が昼飯を提案してくれる。そういえば朝から色々ありすぎた。まだ昼だったのか。
出てきた昼飯は精進料理だったが、出汁がきいて美味しかった。お粥に餡をかけたの、ガンモと野菜を煮たの、胡麻豆腐、蕎麦が少し。
狐が油揚げを出せとわめいてる。うるせえ。
薄味だが、たまにはこういうのもいいな、なんというか、滋味深い。町中だともっとジャンクな食い物もあるのかな。
昼飯をご馳走になったあと、暇になったので作成中の原型を取り出す。持ち歩いててよかった。
ここで言う原型とは、複製を商品(同人立体物なので本当は頒布物というけどまあ商品だ。)にする前の段階の模型のことだ。
原型ができてその後に版権者、つまり漫画なら出版社や原作者、アニメなら製作委員会なんかに販売していいかの審査を受ける。
そして許可が出たら、会場や日時、販売数量限定のいわゆる当日版権が下りる。
そこから許可の下りた原型をレジンなどで複製し、やっとイベント当日を迎えるんだが、複製も結構な金がかかるので、大手や有名どころはともかく、うちのサークル程度じゃ儲けは薄いか、トントンだったりする。
この版権の審査だけは紙媒体の皆さんが羨ましく思える。刷り放題とか委託販売とかズルイ。
そんな事を考えつつ、資料を開きながらパテを盛ったり削ったりしていく。
「うまいもんだね」
源内のおっさんがいつの間にか覗き込んでた。
「まあ好きでやってますしね」
柄を短く切った愛用のデザインナイフを動かしていく。ロボットに限らず、メカものは基本形状に左右対称を出すのがキモなのだ。まだ粗い形ながらそこは気を使う。
「それだけ細かい仕事ができるんなら根付できるかもな」
「根付?ってなんです?」
「これこれ」
腰の煙草入れを外して紐の先にある小さな細工物を見せてくる。
「もともと財布なんかを帯に挟んで、落ちないようにストッパーにするもんだ。誰でも使う小さなこいつに細工を施す。美意識ってやつだな」
おっさんの説明してくれたそれは、
「これは鯰?」
「そう、よく出来てるだろ?」
たしかに細かい細工が素晴らしい。素材は象牙だろうか。ぬるりとした鯰に瓢箪がくっついている。スミ入れまで施してあるおかげで、小さいのに細工がよく分かる。こういうの作りたいな。これ作って売れたら最高じゃん?
「ああ、言い忘れてたけど、寅吉には一律、月に十両の手当てが出るからな。それ以上に稼ぎたけりゃ仕事しな。」
「それは引きこもっても大丈夫ということですか?」
「そりゃできるだろうけど、なるべく社会と接点持ってくれ。そういう役割みたいだしな。」
大僧正を見ると頷いてらっしゃる。そっかー引きこもりはだめかー、俺的にはいいと思うんだがなー、なんとかなりませんかね?
「そのかわり、いい物できたら俺の流行クラスタで紹介してやんよ。」
おっと、さりげなく胡散くさワードが出てきましたよ。と、いうかそもそもこのおっさん、なんで平賀源内を名乗ってるんだっけ?
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