肆之拾 モブ、キャバろうと思ったら横槍を入れられる
「それでこんな朝からどうしたんですか?」
衛人が聞いてくる。そりゃお前、取立てですよ、取立て。
お姉さま方を正面から見据えて言う。
「こないだの鼠の件の報酬を貰いに来ましたよ。値引きは一切なしですのでお覚悟を」
よし、言ってやった言ってやった。お姉さまにお伝えするのに軽く膝が震えてるけど、よくぞ言った俺。これでキャバれるぜヤッホー!
「八番殿! 申し訳ないが急ぎ登城願う!」
突然スマートな感じのお侍が割り込んできた。誰なの?
「あ、佐々木様、上様がお呼びですか?」
「左様、安宅丸が化けたようにござる」
あの、俺が先に取立てに来たんですが。衛人はいいけど、お姉さま方は置いていってください。
そんな俺の視線に気づいたのか、衛人は
「七海さん、こちらは城に詰めてらっしゃる佐々木様です。うちと城の連絡をお願いしてます。佐々木様、この人は俺と対の寅吉七番の七海さんです」
違うよ、お侍の紹介はどうでもいいんだよ。お前だけ城に行けって言いたいんだよ。
「む、このいかにも町人然とした、職人のような害も益もなさそうな者が対の七番と? いやこれは失礼いたした。某は水戸藩城詰め役の佐々木助三郎と申す。以後見知り置かれたい」
佐々木様、ディスるの上手ですね。しかしモブの心根はそのぐらいでは揺るぎませんよ。
「これはご丁寧に。宇野七海です。ところで佐々木様は水戸のご出身でいらっしゃる? ご同僚に格之進さんとかいないですよね? こう、大柄でムキムキの生真面目な、いかにも格闘タイプ…ええと、相撲の得意そうな……」
「む、なぜそれを? 確かに相撲好きの格之進は同僚にござるが」
畜生、なんで本当にいるんだよ。このお江戸は時代劇ごちゃ混ぜかよ。
「七海さん、一体なんなんです?」
怪訝そうな顔をした衛人が小声で聞いてくる。
「縮緬問屋のご隠居が日本全国で世直しする時代劇知らない? 佐々木助三郎って、助さんだよこの方」
「テレビ見ないです。推しのVtuberとかゆっくりなら見ますけど」
変なとこで現代っ子だな、こいつ。今地上波で時代劇放送してるとこなんてないよ。再放送がちょっとあるくらいだから知らなくても仕方ないのかな? この話は平賀のおっさんとするべきか、新さんとの顔合わせのときに平賀さんの世界には例の番組あるって言ってたし。
「とにかく急ぎ登城を」
「わかりました、俺だけでもいいですか?」
そうだ衛人よ、お前だけ行け。お姉さま三人は置いていくがいい。
「安宅丸が化けたと聞いたらあたしたちもいくわよお。あ、でも天狗がお城に登るのはまずそう?」
「左様ですな、上様にお目通りするには人である方が…」
「保名ちゃん、日照ちゃん、しっかりお話聞いてきてねえ、ななくんは三人が戻るまでお茶でもどうかしらあ?」
「クマラさん、わかりきったことを。なんでもお相伴しますよ」
「ななくんならそう言ってくれると思ったわあ」
クマラさんだけでキャバってもいいかな、と思えてきた。好き。
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