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このEDOはフィクションです  作者: 石依 俑
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肆之漆 モブ、「草」の根の深さに動揺する

 あなたはご近所さんが全員スリーパー(潜伏工作員)だと聞かされた事があるだろうか? ないよね。今俺はそんな状態です。誰か助けて。


「……このように江戸には大僧正が配置した草がさまざまおりましてな、もちろん権現様が置いた市中の草も多いのだが」

「あの、すいません、権現様って?」

「初代公方様、家康公のことだよ。東照大権現に祀られてるから権現様、つうんだ。家康公は正一位を朝廷から贈られてるからな」


 嶋田さんに代わって次郎吉さんが教えてくれる。解説ありがとうございます。権現様は家康のことでしたか、だいぶマシになったとはいえ俺ってまだまだお江戸の常識がないんですね。


「捕らえた賊を処する代わりに鑑札を与えて古着屋をさせる、物乞いの元締にお墨付きを与える、芸人をまとめて興行を許す等、そこかしこに権現様の息のかかった草がおり申す。ああ、ついでに言うと宇野殿が懇意にしている小間物問屋の隠居も代々、寛永寺の草にござる」


 え、ご隠居さんもなの? ちょっとスリーパーの規模でかくない?


「寅吉じゃないけど寛永寺組ってことですか? 平賀のおっさんと親しいようですし」

「寛永寺組と幕府組の関係は複雑でしてな、某のように幕府のろくむ寛永寺組もおり申す。ただ、どちらも民が安んじて暮らせるよう、江戸の安寧を守ることに変わりはござらん」

「じゃなんで次郎吉さんは盗人を?」


 盗賊なんてストレートど真ん中で治安の敵じゃん。義賊って言っても所詮は盗人じゃん。貧乏人に施すってもどれだけ懐に入れてるかわかったもんじゃないじゃん?


「俺の稼ぎは魚屋だけだよ。商人や代官から盗むのは謀叛を企てるような連中の資金源を絶つためだ」

「蔵や隠し部屋の図面は妙の父から入手して、な」


 あ、そうか。だから大工、それもお屋敷を作るような棟梁が必要になるのか。なるほどなーって、なるほどじゃねえ! 盗人に図面渡すとかうちの長屋、まるごと反社組織じゃねえか!


「まあ待て、これも大僧正から頂いたお役目だ。今は由井正雪みたいな派手な野郎はいねえが、将軍暗殺を企てる馬鹿は後を絶たないんだよ」

「新さん、じゃなかった将軍様を暗殺? そんな危ないのがいるの?!」


 嶋田さんが言うには、紀州から来て将軍に収まった吉宗公を面白く思わない他の御三家から、将軍は常に狙われてるのだという。怖いとこだなお城って。

 将軍お手元のお庭番だけでは手が足りず、寛永寺組も敵の勢力を削ぐことに協力してるのだとか。


「そこで城の中のことは幕府組に任せて、草の俺らが不殺の手管で力を削いでるわけだ。ついでに言えば鼠小僧は俺だけじゃねえ、顔も名前も知らんが鼠小僧は他にもいる」


「なるほど、盗人にも理屈はあるんですね。奉行所や火盗改めは……まあ機能してないんでしょうね。ここに与力がいらっしゃるくらいだし」


 うむ、とうなずく嶋田さん。うむじゃないでしょ。でもなんで貧乏人に金撒くんだろ?


「小判は重いんだよ。どうせ捨てるなら貧乏人にくれてやればいい。大金を長屋に持って帰るわけにもいかねえしな」

「金が重たくて持って帰るの面倒だから撒くんですか?」

「そう言ったつもりだが?」


 この野郎まっすぐな目をしやがって。盗人のくせに。


 けどまあだいたいわかった。どうやら本人はやり甲斐を感じてるし、幕府を支えてるみたいだし、俺がどうこう言うことじゃないんだろう。まさかうちの長屋が反社勢力の巣窟だとは思っても見なかったけど。


「そういう訳で宇野殿、自次郎吉に長屋へ入る許可を与えていただきたい」

「いっぺん帰ってから猫神使に相談してみていいですか? これってそもそも俺の力じゃないですから。それと今の一連の話は忘れていいですか?」


 草とか聞きたくなかったよ、もう俺に機密聞かせるの禁止! 平穏無事なモブライフを送らせて!

 お急ぎでない方、毛色の変わった此の物語をまだ読んでも構わぬとお思いの方、向後に期待してやろうという方、よろしければ更に下にスクロールして広告下の白星を「ぽちっと」押してやってくださいませんか。


「ぶっくまーく」などもお気が向きましたらお願いいたします。


 評価をいただければ、七海が喜んで通報をものともせずに五体投地でお礼に参ります。

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