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このEDOはフィクションです  作者: 石依 俑
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肆之伍 モブ、聞きたくないのに機密を聞かされそうになる

「……みさん! …ななみさん! 七海さん!」


 うるせえ、野郎のモーニングコールはいらないんだよ。俺を起こしたいならお姉さまを持ってこい。


「七海よ、七海よ、息災か」


 猫神使がザリザリとほっぺたを舐めてらっしゃる。あれ? 俺どうなりました?


「あ、目が覚めた! 七海さん、ありがとうございました! おかげ様で大鼠は退治できました!」

「ナナくん、お手柄よお、大鼠は一歩も結界から出られなかったわあ」

「あなたでも役に立つことが本当に、本当にあるんだねー」

「無事であられるか? 修行もしてない方に大役を任せて、全くもって申し開きもない」


 あ、終わったんだ、良かった。それはそれとして猫神使、すりすりがすごいですね。とうとう所有物宣言すか、いいですよ、受け止めますよ。気絶してるうちに衛人パーティーが大鼠を片付けたのか、やっぱ主人公すげえな。


 鼠が溶け始めたとこから見てなかったけど、なんとかなったか。もうこういうの金輪際、勘弁して欲しい。知ってますか?俺はモブなんですよ。もう今日は疲れたから帰って寝ます。


 神田の長屋へ帰ると門のところで困り顔の青年と、首をひねっている大家さん、なぜか与力の嶋田様もいらっしゃる。

 この青年、実は俺がこちらへ来たときに最初にぶつかった魚屋さんである。その節は大変失礼しました。

 引っ越してから同じ長屋の住人として再会したのだった。名を次郎吉さんという。


「みなさん、どうされましたか?」

「おお、宇野殿。大層ご活躍のご様子ですな、噂は聞き及んでおり申す」


 鼠退治の話だろうけど、俺は猫神使の言うこと聞きながら、エイトたちの活躍を見てただけですよ。しまいにゃ気絶してぶっ倒れてたし。お恥ずかしい。


「お、七海、聞いつくれ。しばらく江戸を留守にしてたんだが、帰ってきたらどういうわけか長屋に入れねえときた」

「いや、なんの話ですか?」


 さっぱりわからん。

 まあ見ときな、と言われたので見とくことにする。次郎吉さんが長屋の敷地に入ろうとすると、一歩入ったところで、ぐにょん、と結構な勢いで押し返された。あれ? こういう拒絶反応っぽいの、どっかで見たぞ?


「と、この通りってわけだ。誰かなんかの術でもかけたかねえ?」

「ひょっとして次郎吉さん、鼠持ってないですよね?」


 そう、この反応、鼠除けから出ようとした大鼠の動きそっくりだった。まさか魚屋さんが鼠持ってるわけないけど、一応、心当たりなので聞いてみた。


「宇野殿、どこでそれを」

「七海、てめえどこまで知ってやがる?」


 なぜか次郎吉さんと嶋田様に詰め寄られる。え? なんで? ちょっと怖いですやめて。


「ちょっと待ってください、俺の話を聞いてください」


 保食神の加護で長屋全体に鼠除けがかかってること、次郎吉さんが弾かれたのが、大鼠を閉じ込めたときの動きとそっくりだったこと、まさかとは思うが、一応聞いてみたこと。

 お二方とも納得された様子で何より。お侍さんと入れ墨入ったお兄さんに、同時に詰め寄られた俺の気にもなってほしい。優しくない。


「最近、鼠が静かだと思ったら、そういうわけだったのかい」

「お話するの忘れてました、すいません」

「あたしはここの預かりだからね、そういうことは早めに言っとくんなさい」


 大家さんに怒られた。勝手をしてしまって面目ないっす。

 ところで、なんでお二人はそんなに鼠という言葉に反応されたのか。


「宇野殿、場所を変えよう。次郎吉、お前は時間をおいて例の場所へ」


 心得たとばかりに頷く次郎吉さん。なにこの主従感。ひょっとして、またなんか妙なことに首突っ込んじゃった? 納期が近いんで、面倒ごとは勘弁なんですけど。


 嶋田様と少し歩いて湯屋、つまり銭湯に着いた。


「暫し待たれよ」


 湯屋の二階に顔パスで上がってしばらく待つように言われた。なんでこんなことになってんだろ。

 だがしかし! 湯屋にはお姉さんがいらっしゃるのだよ! お茶入れてくれたり、手が空いてたらお話もしてくれる。交渉次第じゃあっちのお相手もしてくれると聞いたが本当だろうか。

 まあそんな交渉できませんがね、そもそもコミュ障気味ですからね、大人しくお茶すすって黄表紙本でも読んどきます。

 妙さんのご指導で、最近やっと本が読めるようになってきた。ありがたや。

 読めるとなると、世間に本が非常に多いことに気がつく。特に絵の入った、呪術が飛び交う、英雄豪傑が活躍するような、荒唐無稽な物語が人気があるようだ。

 ってこれ、ほぼラノベじゃねえか!まんま和風の剣と魔法の物語だぞ、日本人って変わらないのか。世界最古の長編小説もハーレムものだったな、そういえば。全く日本人ってやつは。


「待たせたね、七海さん」


 我が国の読書傾向について考えていると、嶋田様から声がかかった。


「遅かったですね、嶋……」


 そこには手拭いで髷を隠し、地味な柄の着流しを着た嶋田様がいらっしゃった。

 えーと、これ町人に変装してるってことでいいんですよね? 刀も持ってないし。


「ここからは三吉と呼んでいただきたい」


 そう耳元で囁かれる。


「はい、三吉さん。えっとどこへ行くのでしたか」

「話が早えのはありがてえ。案内するんで、着いてきとくんなせえ」


 いや、マジで行くとこってどこなんだろ。わからないけど、これきっと機密事項に関係してるんだろうな。寅吉になってから、こんな変装までするガチの機密って初めてだな。大僧正の小僧コスプレは別として。

 俺は何も知らなくても問題ないんですよ? むしろ知りたくないんですよ?

 そのまま川まで歩き、小体な屋形舟に乗り込む。これまたほっかむりの船頭が棹でつき、岸を離れる。少ししておもむろに魯で漕ぎはじめ、川の真ん中辺りまで来たところで嶋田様が船頭さんに声を掛けた。


「中へ」


 船頭さんが中に入ってきた。ほっかむりを取ったら、あれ、次郎吉さんじゃないですか。着物まで変えてるから分かりませんでしたよ。


「さすが魚屋さん、漁師もできるんですね」

「できねえよ」


 できませんか。魚扱ってるんだから舟も扱えるんだなーとか思うじゃない。


「さて、宇野殿、この者が鼠封じにかかる訳を話したいと思う。これは他言無用と心得られたい」

「他言無用というなら、聞かないというのはいかがでしょう?」

「いや、この次郎吉には奉行所の、ひいては幕府のお役目がござる。あの長屋にいられなくなるのはよろしくない」


 なんなの、もう。それなら鼠除け解除しますよ。それでいいならそうしますよ。だから聞かせないで。


「この者は鼠小僧と呼ばれる義賊の一人でありましてな」


 うわー鼠小僧さんですか、なんで盗賊と与力が親しいのか。これは聞いたら戻れない話の予感がビンビンするのでやめてほしいです。

 お急ぎでない方、毛色の変わった此の物語をまだ読んでも構わぬとお思いの方、向後に期待してやろうという方、よろしければ更に下にスクロールして広告下の白星を「ぽちっと」押してやってくださいませんか。


「ぶっくまーく」などもお気が向きましたらお願いいたします。


 評価をいただければ、七海が喜んで通報をものともせずに五体投地でお礼に参ります。

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