参之弐拾玖 モブ、猫神使の名を聞くが教えてもらえない
その後、衛人達は屋敷に帰っていった。人の姿を取り戻したスライムちゃんは引き続き平賀のおっさんの屋敷にとどまるらしい。
僕は衛ちゃんと一緒に住むの! とそりゃもう盛大にゴネていたが、結局は大僧正の説得(雷)で諦めていた。
衛人が涙を流してものすごい感謝をしてたけど、一緒に住んだら即、襲われるだろうしな。スライムちゃんに。くっついてくれたら江戸が平和になるのに。
さて、降って湧いた珍事件は解決した。ここからは俺のモブターンだ。バックオーダーも溜まってきたってほどじゃないけど作った端から売れるし、寅吉ブランドの根付に集中せねばなるまいて。
「氏子の寅吉よ、帰ったか」
「おかえりなさい七海さん」
「ただいま戻りました。猫神使にお妙さん」
長屋に帰ると、猫神使と猫神使に煮干しをあげてるお妙さんが迎えてくれた。
「では猫様、七海さんがお帰りになったので妙は戻りますね」
「うむ。娘よ、大儀であった」
「お妙さん、ありがとね。今度またお菓子買ってきますね」
「お気になさらず」
にっこり笑ってペコリと礼をしてくれる。ええ子や、猫神使もそう思いませんか?
「うむ、わが神の氏子にしても構わぬほどに」
神使にとって氏子にするのはなんか特別な意味があるんだろうか? あるんだろうな。
「産土神を無視して氏子にするのは横紙破りというもの。神の世界も義理が優先する。氏子の寅吉は地縁の神が確定する前だったから猫が加護を与えられた」
よくわかりませんけど猫神使に選んでもらって俺はありがたいですよ。猫神使かわいいし。
それはそれとして、その座布団は俺の仕事用です。猫神使と言えどそいつは譲れませんよ。
「氏子の寅吉は座布団すら猫に譲らぬ」
「いや、そいつは居職の魂ですから譲れません。そういえば猫神使ってお名前あるんですか? キツネはありますよね」
あ、ちょっと嫌そうな顔した。触れられたくないところでしたか。
「猫は猫である。名前はまだない」
あの有名小説の出だしみたいなこと言い出した。
「猫又になる以前、人に飼われていた頃には名前があった。だが神使として選ばれた時に名は捨てた。いずれ神の名付けがあるであろう」
はー神様から名前もらうんだ。キツネも名を賜ったとか言ってたな。そういうもんか。
「だが人の姿にはなれる。元猫又ゆえ」
「え、すごい。一度見せてくださいよ」
猫耳うにゃーんなケモ耳美少女になるんだろうか。いや、猫神使は立派なふぐりを持つオスだった。と、いうことは。
「人の姿だとこうなる」
「猫耳ショタですね」
光に包まれた猫神使は10歳くらいの男の子の姿になった。なんで神使はロリやショタになりたがるのか。かわいらしいけど。
「すいません。後頭部撫でていいですか?」
「かまわんぞ」
それじゃ失礼して。
「撫で心地はどうか」
「ダメですね」
「そうか」
猫の後頭部のちょうどいい感は得難いものだと改めて思い知る。あの手のひらに収まるスッポリ感が人化した神使にはないのだ。やはり猫の後頭部は至高であった。
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