参之弐拾捌 モブ、八番の得物の詳細を知る
「どうされました?クマラさん」
衛人の教導役のお姉さま方に訪問の意図を聞こうとすると。
「僕! ふっかーつ!」
スライムちゃんが自分の体を手に入れて飛び跳ねていた。さっきまでポヨポヨするしかなかったもんね。
「そして衛ちゃん! 僕のリビドーを受け止めてアモーレ!」
ガバチョとばかりに着物をはだけようとするスライムちゃんMK-2。
衛人は引き攣りながらも目だけは離さない。引きながら凝視するとかレベル高いことしてんな。
「穂積ステイ! ステイだ! 俺とお前はそういう仲じゃないだろう!」
着替え覗いてたやつがなんか言ってる。でもお前、スライムちゃんのボディの脳内データで鼻血流して恍惚としてたじゃん。
「七海さん、違うんです! これは違うんです! 違うの!」
スライムちゃんに抱きつかれた衛人が必死に否定する。どうでもいいよ、末永くお幸せに。
「それでクマラさん、改めてどうされました?」
「八番ゆかりの新しい寅吉の検分に来たんだけどお、なかなか業が深そうな間柄なのねえ」
わかりますか、こいつらの業の深さが。正直、衛人が寅吉でなけりゃ放置案件ですよ、対の寅吉って変更できないもんですかね?
「神仏の諮り事ゆえどうにもならぬぞ」
「そこ、なんとかなりませんでしょうか」
こいつの評判に俺の評判も引っ張られるのは納得いかないです大僧正。俺の作る根付の評判が落ちたらどうしてくれる。
「どうにもならぬ、諦めよ。そもお主が対の寅吉とはそうは知られておらぬ」
うそ、そうなの?俺ちょいちょい自分で言っちゃってましたよ。
「八番はこれで既に武勇を立てておるでな。妖異をいくつか退治しておるし、名実共に英雄豪傑よ」
この人斬りガチロリサイコパスが?
「大百足や蝦蟇なら鎮めましたよ。妖異相手だと手加減しなくていいから楽ですよね。まあ弱点が普通の生物とは違うんで、そこは苦労しましたけど」
「大百足に蝦蟇?そんなんいつの間に退治してたの」
「高尾での修行中ですね。百足は太刀に唾つけないと倒せなかったし、蝦蟇は廃屋に住む老婆に化けてたんですけど、部屋の中の行灯が弱点でした」
なんだよその荒唐無稽な弱点。シューティングならユーザーが怒るクソ仕様じゃん。
「とは言えこの子、太刀振るのが下手なのよねえ」
「そうなんですか?一応、剣の流派の次期宗家なんですよね?」
クマラさんが困ったわあって感じで溜息ついてる。なんで俺は衛人のフォローをしているのか。
スライムちゃんに抱きつかれ……もとい、押し倒されてる衛人を見る。もうお前らどっか行けよ。
「剣の反りが違うから、って言い訳してくるんだけどお」
「いや剣の手元が反ってるのと、切先が反ってるのとじゃ全然別物ですよ。抜き打ちはできるようになったじゃないですか」
ほー、反りが違うとそんなに違うんだ。なんで古い太刀じゃないとダメなんだろうね?こほーきとか言ったっけ。
「えいくんに渡したのはねえ、大和の春日大社の神刀なのよお」
春日大社って奈良だっけ。修学旅行で京都のついでに行ったことあるな。商店街で天一のこってり食ったのは覚えてる。
「ななくんは童子切って知ってるう?」
「聞いたことあります。鬼を切った刀でしたっけ?」
まぐろフレークみたいな名前の武士が京都の鬼を切ったんでしたっけか。
「渡辺綱ですよ、七海さん」
「そうそうそれそれ、ツナだツナ」
やっぱ缶詰みたいな名前じゃん。で、その童子切が?
「えいくんの春日の神刀は童子切の兄弟刀なのよお。出雲の玉鋼で打たれた古伯耆刀じゃないと天目一箇神の破邪の加護が効かないのお」
「だから俺、太刀持たされてるんだ…知らなかった」
おい豪傑、自分がなんでその得物持ってるかも知らんかったんかよ。
お急ぎでない方、毛色の変わった此の物語をまだ読んでも構わぬとお思いの方、向後に期待してやろうという方、よろしければ更に下にスクロールして広告下の白星を「ぽちっと」押してやってくださいませんか。
「ぶっくまーく」などもお気が向きましたらお願いいたします。
評価をいただければ、七海が喜んで通報をものともせずに五体投地でお礼に参ります。




