参之弐拾漆 モブ、大地に立つスライムちゃんを見る
遅くなりましてすいません。HDD復旧やらリハビリ中に筋違えたりやらで余裕がありませんでした。
スライムちゃんがパイルダーオンした頭部を体に接続しようとするさよちゃん。体パーツには比礼を振って関節を作る術がかかってる上、ちゃんと着物を着せられてる。
「さて、いよいよ接続ぜよ」
さよちゃんの手が少し震えてる。河童も横で固唾を飲んでる。頭部に入ったスライムちゃんも目を見開いてその瞬間を待っている。
「よし、合体! ぜよ!」
首を体に差し込むと、謎の光が辺りに満ちる。と、同時にスライムちゃんが体を得て起き上がる。
「見事!」
大僧正が思わず、といった感じでさよちゃんの技量に賛辞を送る。この人が興奮してるの珍しいな。
「やった……やったぜよ、とうとうこの手で寅吉の器を作り上げたぜよ! 見たか大僧正! 河太郎!」
「お見事です、我が創造主にも劣らぬ業前かと」
河童が手放しで褒めてる。こいつも中身はちょっと違うけど似たような作りだもんな。今の主のさよちゃんの技量があの喜助さんと似てくるのが嬉しいんだろう。
「いざなぎの傀儡師、さよ。お主はかの喜助と並ぶ者となったぞ。見事じゃ。褒美をとらせたいが、なにか欲しいものはあるか?」
「あ、じゃあこの作業小屋が欲しいぜよ」
わかる。納得いく作業スペースって欲しいよね。作業スペースを貸し出してるプラモ屋もあるけど、あれは家でプラモを作れない悲しきお父さんたちのためにあるものだ。家族いたら塗装とか難しいもんね。俺にはサークル部屋があるけど、あんな環境は普通は願い下げだろう。
シンナーと塗料とレジンの臭いにまみれ、コンプレッサーの騒音が唸るあの環境は俺らには落ち着くが、模型趣味じゃなければ一時たりと居たくないだろう。
「ふむ、欲がないの、こんな小屋で良ければ好きにせい」
大僧正、分かってませんね。職人にとっては納得のいく作業環境ほどのご褒美はないんですよ。
「自分の工房は職人にとっていわば城。これでうちも一国一城の主ぜよ! どうだバカ弟子よ、羨ましいか!?」
さよちゃんのテンションが爆上がりしてる。大僧正と河童に伝説の喜助さんに並ぶ腕だと言われたもんね。そりゃ嬉しいだろうし、その上、工房も手に入ったもんね。
ところで俺さっき破門されましたよね?もう弟子じゃないですけど覚えてる?
「ちっ穂積が復活しやがったか。服なんか着なければいいのに」
不機嫌そうに怖いことを言う衛人。お前キツネを襲おうとした前科あるのに何言ってんだ。
「衛人、ところでお前その刀はどうしたの? なんで帯に挟むんじゃなく吊ってるの? それって刀じゃなく太刀じゃね?」
なにやら専用の器具で腰から提げてる。これは刀の前に普及してた太刀ってやつじゃ?
刀との最大の違いは腰に提げたときに反りが下を向いてることだ。
刀なら反りは上を向く。太刀なら下だ。これだけの違いなのに、運用はまるで変わってくる。らしい。
「クマラさんがこれ使えっていうんですけどね、古伯耆刀なんですけど、うちの流派、太刀の運用って伝わってないんですよ」
「あの人、大僧正曰く牛若の師匠らしいし、太刀も使えるんじゃないの?」
「それ本当なんですかね?たしかにクマラさんの剣技は半端じゃないですけど。太刀って難しいんですよ、抜刀から手の内から、刀と全然違うの。一から覚え直しですよ、変な癖つきそうで嫌なんだけど、これ使わないとダメなんですって」
そう、ムチムチ天狗のクマラさんは義経の兵法の師匠だったという。
兵法というのは戦の総合戦闘術と言っていい。馬や弓や槍や格闘も入ってるって俺の合気の先生が言ってた。古流やってる友人は手裏剣も教わるって言ってたな。オカルト君こと岡本君のことです。あいつどこに向かってんだろ。
「寅吉八番よ、嘘ではないぞ。あやつはたしかに義経の師匠であるし、京八流の始祖でもある。昔は鬼一法眼と名乗っておったのう」
「京八流の始祖とか鬼一法眼とか伝説の類じゃないですか⁈」
驚く衛人。驚くとこなの?
「驚きますよ、鬼一法眼なんて全くの謎の人物で兵法だけじゃなく陰陽道にも関わってたとか聞きますよ。京八流はうちの流派とはなんの関係もないけど、逸話くらいは聞きますもん」
「あらあ、仙郷の寅吉にも伝わってたのなら光栄だわあ」
いらっしゃいクマラさん。土御門さんに日昇さんも。衛人のお目付三人お姉さまが揃い踏みで登場なされた。今日はどうされました?
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