壱之漆 モブ、インドラの雷槌を見る
狐巫女がしっぽをピーンと逆だたせて俺を睨んでいる。あざといわー。この狐あざといわー。
「このお方は若一様と仰ってな、江戸の稲荷社の取りまとめをしておられる神使だ。ご挨拶しときな」
「そうじゃ、妾が畏れ多くも王子稲荷縁起の若一王子の名を賜った、関八州の稲荷神使の取りまとめ、若一ぞ!」
「これははじめまして。寅吉七番こと宇野七海と申します」
自己紹介って自分をわかりやすく相手に説明することだよね?内容がビタイチ理解できないんですが。
あとにゃくいちって呼びにくい。モフモフ様とでも覚えとこう。
座ってる俺をフンスとばかりに見下して、モフモフ様が舐めるようにじっくりと見定めていらっしゃる。
エキノコックスとか保菌してませんよね?
「ふむ、この可もなく不可もなく、害も益もない感じ。いい七番じゃ。八番との対比もコレなら十分じゃのう」
「ナチュラルに貶されてますけど、俺って八番と対になってるんですか?」
「うむ、八番は次に召喚される予定じゃが、英雄豪傑の相を持つものが選ばれる」
うわー超めんどくさそう、こきつかわれそう。モブでよかった。
「江戸にはお稲荷様が多いからな、独自のネットワークを持ってらっしゃるんだ。覚えを良くしといたほうがいいぞ」
「うむ!伊勢屋 稲荷に 犬の糞というぐらいだからの!」
ああ、そういえばこっちに来たとき犬のうんこ多いなと思った。あれぐらいあるってことか。
「犬のうんこ並みにどこにでもあるんですね」
「犬のうんことは何事じゃ!」
「いや、ご自分で仰ったんじゃないですか」
「覚え良くしろって言ったとこじゃねえか…」
平賀のおっさんが頭抱えてる。本当に苦労人ですよね。
大僧正は変わらずニコニコして…ないな。
「インドラヤソワカ」
「ギャーー!」
あ、狐に雷落ちた。室内なのに雷とはこれいかに。
「若一殿、少々勝手が過ぎるようだの?寅吉の検分は儂に任されておるはずじゃが?」
「待て待て天海!この寅吉に関しては神仏双方のギャーー!」
また落ちた。割と先制ファイター気質なんだな、この大僧正。
「さて、そこのこんがり狐色になったキツネは置いておくとして」
「厳しい…ほんにキツネに厳しい世の中じゃ…」
おっさんが胃を押さえてホント勘弁してくださいよ…って顔してる。
「今そこのキツネから話があったように、お主と対になるのは寅吉八番じゃ」
そしてシレッと仕切り直すんですね。半分くらい仏様なんですよね?割と慈悲なくね?
「世に影響を与えぬであろう七番、英雄豪傑の相を持って世に影響するであろう八番、これらが同時にあってどのように世界に容れられ、また容れられぬか、それがお主らをこの世に置く眼目じゃよ」
「両極端の異世界人を同じ世に置き、因果の流れがどう動くのか見届ける。それが妾の使命なのじゃ!」
「インドラ…」
「待てというに!これは衢の神である佐田彦神からのご下命じゃ。因果の行く末をこの者の近くで見届けよと!ここが世の水分になるとの仰せじゃ!」
「おお、佐田彦神もご存知のことじゃったか。それならば滞りなくそのようにされよ」
のじゃ系ショタとのじゃ系ロリがのじゃのじゃ会話しておられる。
一見ほのぼのするけど、これ1000歳と人外の会話なんだよなあ。何言ってるんだか全然わからんけど。ちまたのかみ?よのみくまり?スジボリとか研ぎ出しとかウレタンコートとか、そういうわかりやすい話してくださいよ。
「分岐を導く神が、お前さんと八番の存在がこの世界、ひいては並行次元の行方を決めかねないって仰ってんだよ」
おっさんが余計な解説してくる。あーあーモブだから聞こえませーん。
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