参之弐拾肆 モブ、本気で弟子入りするか迷う
腕も脚もおおまかな形が出たところでさよちゃん先生にスイッチする。さすが先生、ギュルギュル回して、迷いなくあっという間に形を出して行く。
「図面が頭に入ってると楽だぜな」
うん、文字通り図面が頭に(大僧正にインストールされて)入ってるもんね。それにしても作業が早いけど、こればっかりは経験の差なんだろうな。どんな道具でも、慣れが必要ない道具なんてない。大きかろうと小さかろうと、感覚的に扱えないならそれは慣れが足りてないのだ。
そして自由度の高い道具ほど、習熟の度合いによって魔法のような加工ができるようになる。
この轆轤で細かな起伏を出してるさよちゃんや、うちのサークルのヒート斎先輩も魔法使いと言って差し支えないだろう。
ヒート斎はキツネキング先輩のような自称ではなく、投稿型の模型SNSでつけられた尊称であり、その由来は「ヒートペン」と呼ばれる道具を自由自在に操ることから、畏怖を込めて呼ばれるようになったと言われている。
ヒートペンとはプラスチック相手なら「切る」「融かす」「くっつける」「均す」など、最終仕上げ以外におよそできない加工はない、と言われてるプラモデル界の最終兵器である。
高熱を持った刃先でプラを切り裂くヒートペンは、プラモの加工自体がメーカーの使用想定外にも関わらず、コアな模型ユーザーを獲得している習熟の難しい工具だ。
ヒート斎先輩の模型SNSでの発言は、いつもこう始まる。
「まず、ヒートペンでランナーを開きます」
控えめに言って頭おかしい発言である。
ランナーとはプラモデルのパーツを繋いでいる細いプラの棒であり、いいとこ2ミリから3ミリの細さである。訓練されたヒートペン使いはこれを素材に切り開いて造形をしていく。わけがわからないよ。
ヒートペン使いは狭い模型界においても「あの人たち、ちょっと違うから」と、少し距離を置かれている界隈の方々である。そしてヒート斎先輩はその中でもパイオニアとして君臨する「ちょっと違う オブ ちょっと違う」と言っていい存在だ。どう育ったらこうなるの。
そしてさよちゃんも間違いなくちょっと違う側の子だ。超絶技巧を当たり前の顔でこなしている。お里の周りのレベルが高かったのだろうが、要するにこの子、造形レベルが半端なく高え。これホントに弟子入りするのもアリかも知れん。
「ちゃんと弟子入りしたいのならば、まずはうちの里の者にならねばなるまいぞ。簡単に言うと、うちと夫婦になればいいぜよ!」
「ははは、ノーセンキュー」
「言葉はわからんが断られたのはわかるぜよ! まあいいや!」
「七海さん、なんでロリの求婚を断るんですか! 絵師ちゃんがかわいそうじゃないですか、あっ! 黒い痛い怖い! キツネ巫女さん、いい加減やめてお願い! 穂積おつちけ、俺を呑みこもうとするな!」
衛人が黒い靄に包まれながらスライムちゃんに捕食されそうになってる。こいつ、主役ポジションかと思いきや、ギャグ要員だったんだな、いいからお前がおつちけ、いや、落ち着け。
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