参之拾陸 モブ、大きな音の正体を知る
「ズルい! ズルいですよ七海さん! 地獄に落ちて蟲に食われろ!」
「ちょっと悪口がひどくない?!」
地獄に落ちろとか、突然ディスられてる俺。なんかしたっけ? いや、今まさに投げて組み伏せたところだけど。
「いいですか! まずはロリ双子! さらにロリ絵師!」
自由な方の手で、さなとかなの双子、さよちゃんを順に指す衛人。指された順に顔がうえってなってる。やめなさい、女の子がしていい顔じゃないよ。
「そしてロリおっぱい! とどめにロリキツネ巫女!」
お妙さんとキツネも指していく。キツネが見せたらいけない顔で威嚇してる。
「ロリハーレムじゃないですか! ロリハーレムは男のロマン! この裏切り者! チキショウめええ!」
「よくお妙さんの胸の大きさを見抜いたな。着物でわかりにくいのに」
「剣術道場生まれ舐めんな! 着物なんぞ見慣れとるわボケキャオラアァァ!」
「あの、胸の話はそのへんで……」
お妙さんが胸元抱えて座り込んで赤面してる。ごめんなさい、デリカシーが足りませんでした。衛人を固めたまま頭を下げる俺。
「……あの、すいません、そろそろ離してもらえませんでしょうか、乱心したのは本当に申し訳ないです」
正気に戻ったような顔をして衛人が懇願してくる。こいつ、どうする? とキツネと長屋の面々に目で問いかける。
赤面したお妙さんを除くロリ四人が平手で首をかっ切るジェスチャーをしてる。そっかー、ギルティーかー。
「そやつからは、肥に漬け込んだ納豆を顔に塗りたくられるような不快さを感じるのじゃ!」
キツネがすごい表現をしてる。そしてそれに深く頷く長屋のロリ住人たち。そんな気持ち悪いの?! ものすごい罵倒をされて、死にそうな顔でうなだれる衛人。
「落ち込んでる衛人に、大変残念なお知らせがあります」
「…まだなんかあるんですか? なんですか?」
「ここの女子の意向ですが、斬首の方向で話がまとまりそうです」
「なんで?!」
そこに意を決したように、やおらキツネが前に出てくる。なんか女子のみんなの代表面してるけど、お前、ここの住人じゃないじゃん。
「やい八番!」
「やったあ! ロリキツネ巫女さんだ! お名前あります? あったら教えてください、僕は衛人と言います、耳と尻尾モフらせてください、良かったらその先の熱い展開も!」
キツネが前に出た途端に復活した荒い息の衛人。
ビビって涙目で引きつるキツネ。尻尾を股に挟むな、代表みたいな顔して出てきたんだから最後までちゃんとしてなさい。こいつはちょっと締めとくから。
「痛い! 七海さん、これ! あいた、いたたた!」
うつ伏せにした肩を踏んで、膝で肘を固定し、手首を内側に曲げていく。これ痛いよね。必死にタップしてるが、まあそう言わずに喰らっときなさい。
「やい八番! 関八州稲荷神使取りまとめ若一の名において、お主には妾とこの者共に近寄れぬ呪をかける! 宇賀野御霊も照覧あれ!」
おお、なんか黒いもやがそこかしこのお稲荷さんの祠から出てきてる。これ、俺も巻き込まれそうだ、長屋に入れなかったら作業できないじゃん。手を離して衛人から距離を取る。
「え、なにこれ、まとわりつく、これ染み込んでくる! やめて! 染み込んでくる!!」
なんかホラーの序盤で、いらんことして犠牲になるやつみたいでちょっと面白い。怖い絵面だけど、キツネのことだから害はさほどないだろうし。
「あ、こういうことでいいのか」
クールビューティー(陰陽師)が正解見つけた! みたいな顔してらっしゃる。真言宗のお姉さまも、天狗のお姉さまも首肯されてる。
「七番君、私達もこの子の煩悩を抑えるのは苦労したのよお。結果的に無理だったけどお。なるほど直接、呪をかければよかったのねえ」
「苦行に追い込んでー、考える力がなくなったところで煩悩の束縛と封印を五大明王の力で施したんだけどねー、この子、その程度じゃ無理だったねー。寅吉だからって遠慮するんじゃなかったね」
天狗お姉さまと、尼さんお姉さまがケラケラ笑ってらっしゃる。人権とかないの? この世界じゃなさそうだな。
「五大明王の封印?」
「うん、明王の羂索で縛るんだけどねー」
「なに言ってるかわかりませんけと、ひょっとしてそれって縄ですか?」
「魔を縛る縄だねー。ほら不動明王が左手に持ってる縄」
「俺が聞いた音って、その縄が切れる音だったんでしょうか? 音も合計で五回だったし」
「そうかもねー、なんで聞こえたのかわからないけどねー」
ますますわからんことになってます。もういいや、どうせ俺の加護のせいなんでしょう?
「七海よ喜べ、ぶっくまーくをしてくださった方が増えたぞ」
「みなまでおっしゃいますな大僧正、五体投地の支度はこれこの通り!」
「前回、いいところまで追っかけてきた根性のある警官がいましてね、今回はそんな警官がいたら、『あばよーとっつあーん!』って言って逃げ切るつもりなんですよ! 楽しみだなあ!」
「お主、妙な楽しみを見出しておらぬか?」
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「ぶっくまーく」などもお気が向きましたらお願いいたします。
評価をいただければ、七海が喜んで通報をものともせずに五体投地でお礼に参ります。




