壱之陸 モブ、狐属性には目覚めない
「ところで、ここまでで質問あるか?」
平賀のおっさんが聞く。むしろ疑問しかねえよ、なんだこの世界。しかし質問、質問なあ。
「えっと、そうだ寅吉ってのはコードネームみたいなもんですか?俺は七番でしたっけ」
「そんなもんだ。俺らみたいな異世界人はまとめてそう呼ばれてる」
ダブルオーナンバーみたいなものなのか。七番は欠番だってお奉行様が言ってたけど、今まで何人くらいいるんだろ?
「寅吉は現状20人いる。そのうち今江戸にいるのは俺とお前さんを含めて12人だな」
「なんでまた寅吉なんつーネーミングなんですかね?」
最初に呼ばれたのが熱狂的タ○ガースファンだったから虎キチとか? ハハッまさかね。
「最初にこっちに呼ばれたのが熱心な○イガースファンでな」
まさかだった!
「最初に寅吉担当だったのが、町方のお役人だったんだが、聞き取りの最中に早々に理解を放棄してな、まとめて俺らは仙境の寅吉ってことになった」
「それはどっちにとっても不幸な話ですね」
「まあお役人じゃ異世界人を理解するのは難しいだろ。それに異物はまとめた方が都合いいしな」
異物、か。神仏案件だから存在を認めないわけにもいかないけど、まあ異物だわな。お役人がひとまとめにしたくもなるか。お手数かけます。
「あれ?でも今は大僧正が担当なんですよね?」
「寅吉なんて存在はそのお役人の手に余ったんだな。役目を変えてほしいって上役に泣きついたそうだ」
手に余っちゃいましたか。そりゃそうだ、大なり小なりこっちからしたら俺らは非常識な存在だ。今までの寅吉はどんな人だったんだろうか。俺が最底辺なのは間違いないとして。
「で、件のお役人はお役御免になって、大僧正が直接面倒を見るようになったのさ。俺は言わばその下請けだな」
「はあ、それはお疲れ様です。ところで欠番ってのは?」
お奉行様がやっと欠番が来たか、みたいなこと言ってたよね。
「そこで妾の登場じゃ!」
スパーンと襖を開けて飛び込んできたのは、緋色の袴に白い小袖の巫女装束にピンと立ったケモミミ、モフモフしっぽの小柄な狐巫女さんだった。
「なんだキツネか」
「もうちょっとこう、なにかないのかや!」
我が模型サークルの誇るキツネ専ケモナー、キツネキング先輩なら狂喜乱舞しただろうが、あいにく俺には狐娘属性はない。
キツネキング先輩とは、狐娘好きを誰はばかることなく公言し、すべてのオンゲーや某ちゃんねる掲示板などでハンドルネームとして「キツネキング」を名乗り、あまつさえ「キツネキングのブログ」を独自ドメインで開設したうえ、SNSなどで個人情報が割れに割れてもまだ名乗り続けているという猛者だ。
そろそろ銀行口座も割られてんじゃないだろうかあの人。
諍いの少ない我がサークルだが、例外的に美少女フィギュアの塗りに命をかける「ぱんつ先輩」とキツネキング先輩は、ぱんつで狐を洗う抗争を続けている。
抗争のきっかけは、ぱんつ先輩の作品をキツネ先輩が勝手に狐娘に改造する、後に「始まりのキツネテロ」と呼ばれる宣戦布告行為によるものであった。
怒り狂ったぱんつ先輩によって、報復としてキツネ先輩の狐娘はぱんつ姿に改造され、更に報復としてぱんつ作品へのキツネテロが進み、結果としてぱんつ姿の狐娘が量産されるという、どうしようもない負の連鎖が続いている。
肉シミは何も生まないのよ。
「あなたを見て喜ぶ方なら、キツネキング先輩という超弩級の人物を紹介しますが」
「い、いや、その者、聞いたこともないのになんかすごい怖気を感じる…」
あの人ならこんなの見た瞬間、秒で拉致・監禁に及ぶことだろう。「戸籍がないから拉致じゃないもん!」とか言いながら。
「若一様じゃないですか。どうされました?」
「平賀〜こいつ異世界人なのに反応薄いよう。驚きすらしないってどういうことだよう。こいつオタクじゃないのかよう」
俺はオタクじゃないと言うに。のじゃロリ狐巫女なぞ、もはや一般教養に過ぎぬわ。
「それより欠番の話はどうなりましたか」
「もうちょっと妾に興味持って!」
普通の女子、できればシュッとしたお姉さんを所望する。
「しかし白星を黒星に変えるのはどうかと思うぞ。勝ち越しを狙わぬ力士なぞおるまいて」
「だから相撲じゃないんですってば。ポイントを送ってくださる方の気持ち削ぐのやめてください」
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