参之拾参 モブ、やっと一息ついてもお姉さまとは話せてない
ハゼの天ぷら揚げマシーンと化した次郎吉さんに掛ける声もなく、ひたすらに居酒屋の店員ムーブで配膳するしかなかった俺。おいゴンザレス、お前ちょっと手伝えや。
「煮干し…」
ごめん、ちょっと待ってて猫神使。酒やら天つゆやら大根おろしやらの配膳でいっぱいいっぱいなんです。あ、お幸さんはもみじおろしの方がいいと? お待ちくださいね、次郎吉さん、唐辛子ってありましたっけ。
見かねたゴンザが手伝おうと腰を浮かしたが、
「ご隠居さんのお世話で権左は連れてきたんだ、たまには羽伸ばしな」
平賀さんがとてもいらんことを言うので、迷いつつも一度浮いた腰を据えやがった。ゴンザレス、なんでこっち来ないんだよ、働くのはどっちかっていうとお前じゃん?
「七海、お前さん、勘違いしてないか? 権左は俺からしたらクライアント側の人間だぞ? お前さんはおまけなんだから、相応に動かなきゃ」
いい加減、腹たってきた。そっちがその気なら、こっちにも考えがありますよ。
「ほう、じゃあ新さんのお話でもゆっくりしましょうかね。酒のつまみにちょうどいいでしょう?」
「まあ、お前さんも疲れたろ。席に座って弁当でも食べな」
気持ちいいほどの手のひら返しが来た。そんなことより俺もハゼの天ぷら食べたい。
「…煮干し」
はいはい、猫神使、席を守ってくださってありがとうございます。お望みの煮干しです、たんと召し上がってくださいな。
にゃむにゃむ言いながら煮干しに夢中な猫神使。可愛い。お姉さま方も猫神使にキュン死してる。
かつお節をあげて、うみゃうみゃ食べながらくしゃみする猫神使も可愛いんだぞ。
チリリ、トン、シャン、と、三味線が爪弾かれてる。繊細な音だ。春駒姐さんが持参の三味線で小唄を小さく唸る。
燃えるような紅葉の中、小粋な唄が散った葉のように川面に落ちて流れていく。
なるほど、これが粋な楽しみか、お幸さんが平賀のおっさんに落ちたのもわかります。悔しいけど、俺みたいな若僧じゃこの遊びはできない。認めてやろう、平賀さんよ。
「お前さん、どこ目線だよ」
「まずは財力がないと無理ですね」
「接待は金だけの問題じゃねえよ。相手をどう喜ばせるかっていう視点が大事だ」
ふむ、相手の視点ですか。
「そうだよ。こういう、景色もいい、酒も肴もうまい、そこに三味線と小唄で一世を風靡した春駒師匠がいる。さあ、お前さんならどうする?」
「お姉さま方と話したいから席を外してもらう?」
「最悪だな。想定できないくらい最悪だ」
お姉さま方も呆れた顔をしてらっしゃる。俺の横ではにゃむにゃむと猫神使が煮干しを食べてらっしゃる。いつもは少食なのに今日はたくさん召し上がりますね。
「七海さんは自分の欲に素直でよろしい。平賀さん、職人てのはこんなもんですよ。自分の興味があるところしか見えないのが、職人というもんだ」
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