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このEDOはフィクションです  作者: 石依 俑
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参之拾壱 モブ、紅葉狩りでパシらされる

 新さんとの出会いから一月ほどが経ち、季節は秋に変わっていた。

 食欲の秋、スポーツの秋、そしてお姉さまの秋である。さあ、平賀さん、お幸さんと芸者のお姉さま方との、めくるめく紅葉狩りへいざなってくださいまし!


「七海さん、次の晦日に遊山が決まりましたよ。船を仕立てて王子まで行くそうです」

「わざわざ伝えに来てくださってありがとうございます。本当に楽しみです」


 長屋へウェルカムお幸さん! 晦日ってことは今月末ですね! お妙さんの読み書きと常識講座のおかげでそれくらいはわかるようになりました。了解です、吐くほど楽しみです! このテンションで対応するとドン引きされると思うので、できるだけ冷静な対応を今は心がけますね! ウッヒョー楽しみー! 猫神使と猫じゃ猫じゃをタップダンスできるくらいテンション上がってます!


 当日の朝。お出かけ支度を終えて、猫神使を肩に乗せた俺の前に、なぜか長屋住人の二人が立ちはだかった。


「あの、なんで次郎吉さんと春駒姐さんが?」

「弁当だけじゃなくて現地で料ってほしいんだとさ。いつものことだ。平賀の旦那の余興だよ」

「うちの弟子達から是非にって頼まれたんだよ。まあ、たまの遊山もいいもんさね。そうだ、あんたちょうどいいから荷物持ちな」


 魚屋の次郎吉さんと、三味線師匠の春駒さんがそれぞれおっしゃる。何がちょうどいいの?


 どこの長屋も似たようなもんらしいが、うちの長屋は住人の仲が非常によろしい。

 あんた家族かよってレベルで干渉してくるし、味噌醤油の貸し借り程度は当たり前過ぎて話題にもならない。

 あいつ最近見てないけど大丈夫かなー、と思ったぐらいで平気で家に踏み込んでくるし。当方、一人暮らしの感覚はゼロである。助かる人もいるんだろうけど俺には心配は必要ないです。だって死なないから。


 つまり、そんなプライバシーのない人達にお姉さま方とのランデブーを見られるというわけで、俺の心のブレーキがベタ踏み状態になるのは避けられないのです。お二人ともなんで来るの。キャッキャウフフできなくなるじゃないの。めくるめくプランが台無しじゃないですか、平賀さん。なんで魚屋なんか発注したの。


 グダグダと考えてたら船着き場へ着いた。


「七海さん、こっちですよ。ところで知ってるでしょうが、あんたの根付は大人気です。そろそろ新作を頼みますよ、次は象牙でも使ってみますか?」


 ご隠居さんが船に乗っていらした。もちろんゴンザレスさんもいらっしゃる。俺の知り合いがたくさんいる。わーい。いやなんで?


「平賀さん、この集まりはなんですか? 俺とお姉さま方とのラブチュッチュな行楽じゃなかったんですか? わざわざしょうぐ…新さんと会ったのに、あれは交換条件じゃなかったんですか?」

「恒例の遊山接待だよ。前に接待に呼んでやるって言ったろ? 今日はいつものご隠居の接待に加えて、ご隠居が辰巳の芸者衆を労ってやりたい、っておっしゃるから呼んだんだよ。嘘は何もついてねえ」


 汚い。さすが寅吉、汚い。


「なんで次郎吉さんまで?」

「あいつのハゼの天ぷらうまいんだわ。魚屋だけあって魚料理に関しちゃ、ちょっとしたもんだぞ。あの長屋だから声かけやすいしな」

「春駒姐さんは?」

「芸者衆が自分たちだけ、お呼ばれするのは気が引けるっていうんでな、師匠にも声をかけさせてもらったたんだよ。知らねえ仲じゃないしな」


 うちの長屋の人にずいぶん親しいんだな、このおっさん。


「ねえ平賀さん、平賀さんってひょっとしてうちの長屋の関係者?」

「む……違うぞ」


 ピタリと止まるおっさん。おい、こっち見ろよ。


「とても違うようには見えないんですけど」

「お幸がな、師匠に習いたいって前に通わせてたんだよ、それに次郎吉はうちの魚を任せてるしな、俺もこっちの話をいろいろ聞かせてもらった間柄だよ、遠傘長屋に寛永寺は関係ないぞ」


 すごい早口でごまかそうとしてるけど、語るに落ちてますよね? それにしてもやっぱり大僧正絡みなのか、人集めて何しようっていうのかね? 魚屋、大工、新聞屋、芸事の師匠、大道芸人、何の共通点があるのかさっぱりわからんけど、まあなんか目的があるんだろうな。


 船に揺られて川を進んでいく。この時代の川は清流と呼んでいいほど水が澄んでいる。東京の川を流れる悪魔の汁みたいな色はしてない。下水がそもそもないもんな、木くずや紙くずはたまにあるけど、少しだから無理なく自然に帰るんだろう。


「旦那、着きやしたぜ」

「お、ご苦労。少しだが、帰りの時間までちびちびやっててくれ」


 徳利を船頭さんに渡してる。大丈夫かな、と思ったけど飲酒運転なんてこっちにはないか。

 ここが王子の滝か。さすが紅葉の名所、少し開けた場所に紅葉した木々がそこかしこに生えている。

 今日はいい景色でゆっくりできそうだ。あとお姉さま方とキャッキャウフフとお話したい。


「七海、お前はこれ持て」


 鍋と水の入った手桶を渡される。え?


「ぼさぼさすんな、炭も起こさなきゃならねえんだから早く持ってけ」


 川原を見るとゴンザレスが緋毛氈敷いて、傘を打ち込んだ杭に留めていそいそと席作ってる。お姉さま方もゴンザレスの逞しい背中に釘付けだ。猫神使もいつの間にかお姉さまの膝の上にいらっしゃる。ゴロゴロ喉鳴らしてんじゃねえよ。


「そっちじゃねえ、脇にかまど組んであるだろ、そっちだ」


 あれ? 俺のお楽しみ行楽のはずだよね? なんでナチュラルに魚屋にパシらされてるの?

お急ぎでない方、毛色の変わった此の物語をまだ読んでも構わぬとお思いの方、向後に期待してやろうという方、よろしければ更に下にスクロールして広告下の白星を「ぽちっと」押してやってくださいませんか。


「ぶっくまーく」などもお気が向きましたらお願いいたします。


評価をいただければ、七海が喜んで通報をものともせずに五体投地でお礼に参ります。

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