参之拾壱 モブ、八番の近況を知る
うむうむと上様がなにやら俺の顔を見てうなずいている。
「なるほど、七番の人となり、しかと見届けた。できれば市中で会ったときには、新さんとして迎えてほしい」
「何を見届けたのか知りませんけどもういいですよ、わかりましたよ、新さんですね。あとで文句言わないでくださいよ」
「たのむ」
めっちゃいい笑顔の上様、いや、新さん。この世界の偉い人、身分コスプレ好き過ぎだろ。大僧正も小僧さんコスプレしてるし。
「新さん…と呼ばせてもらいますけど、なんで俺に興味持ったんですか?」
「うむ、寅吉八番は俺の前では殊勝にしてたが、指南役からやや不穏な人物だという報告を受けたのだ。対の七番の評判はごく普通の職人だと聞いたのだが、直に確かめておかねばと思ってな」
ああ、なるほどね、ヤバイですもんね、あいつ。確か衛人って言ったな。お江戸に来ていきなり人斬りロリコン宣言とか、控えめに言って頭おかしい。しかも紳士じゃない方のガチ勢と来た。
いろいろ自分の世界で鬱屈もあったんだろうけど、妄想を速やかに実行しようとするの、やめてほしい。アレと対扱いになってるの、ホント勘弁して。
「八番は俺に会うなり試合を申し込んできてな、そんなやつは初めてだったよ」
ヤッベ、マジヤッベ。初対面の最高権力者に試合申し込むとか、どんだけ尖ったナイフだよ、承認欲求モンスターかよ。どこが殊勝だよ。
「まあ軽く返り討ちにしてやったが。そうしたら今度はえらく素直になった」
「そう言えば、新さんは柳生新陰流皆伝でしたか」
平賀のおっさんが頷いている。柳生新陰流って将軍家のお留流だっけか、現代じゃ広く門戸を開いてるけど、江戸時代は太刀筋からなにから秘密だったんだよな。
「衛人…八番って弱いんですか?」
英雄豪傑の役目なのに?
「いや、あの年では大したものだ。切紙までは受けてるということだしな。ただ踏んだ場数が違う」
呵呵大笑する新さん。切紙ってのは、剣術の修行の進み具合の目安だけど、流派によって違うとは言え、今で言う四・五段に相当するはずだ。あいつ、ちゃんと強かったんだな。と、いうか、年齢的に考えたらめっちゃ強い。
そしてそれを軽く捻った新さんの皆伝は、流派の奥義まで伝えられた、それ以上教えることはなくなった段階だ。九段だな。大体は切紙・目録・皆伝の順番で強い。
柳生新陰流の奥義まで伝えられた将軍様。なんだそりゃ、剣術的にも権力的にも地上最強かよ。よくそんなのに喧嘩売ったな、あいつ。
そして場数が違うと笑う将軍。そもそも場数を自慢するほど、実戦で剣を使うのがおかしい立場なんですよ? この方、わかってないんだろうな。
ところで指南役ってのはあのお姉さまお三方のことだろう。クールビューティ(金欠)に、淫乱ピンク魔乳尼さん(想像)に、お色気ムチムチ山伏(天狗)の皆さんだな。好き。
「あいつ、衛人は元気にやってるんですか?」
「修行で毎日悲鳴を上げる余裕もないそうだ。なあ、平賀、俺が言うのもなんだが、ちょっとあれは詰め込み過ぎじゃないか?」
「鉄は熱いうちに打て、打って壊れたら直せばいい、と大僧正が」
「そうか…あの御仁なら、まあ、そうか…」
将軍様が引くほどの修行なんだろうか。
「あいつ、今は何してるんですか?」
「高雄山で回峰行してると聞いたな」
「なんです、それ?」
「奥山駆けと断食と読経のセットだ。まずは法力を鍛えるらしいぞ」
平賀のおっさんが教えてくれる。なんか断食とか大変そうだな。
「具体的にはどういう?」
「食事と水をほぼ断って、経を唱えながら山の中をひたすら移動してる。時々護摩炊いてる」
「苦行じゃん」
「人が死ぬレベルで苦行だよ。実際京都のほうじゃ死んでるのが何人もいるらしいし」
法力ってそこまでしないと身につかないもんなの? じゃあ俺は特別な力とかいらないや。羨ましくない。でもお姉さまと修行してるのは妬ま憎らしい。
大僧正の指示なんだろうけど、あいつ大変だな。あ、だから対の俺は楽に生きてていいのか。
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