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このEDOはフィクションです  作者: 石依 俑
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参之玖 モブ、またややこしいのと知り合う

 そんなこんなでお武家さんと会う日になりました。今回はいつもの寺ではなく、平賀のおっさんのお屋敷で、ということらしい。近いからいいけど。


 猫神使に留守番を頼み、お妙さんに猫神使が留守番してること、昼に煮干しと鰹節をあげてほしいこと、水が減ってたら足してあげてほしいこと、を伝える。本格的に飼い猫っぽくなってきたな。


 準備(主に猫神使の取り扱い説明)ができたので、出かけることにする。長屋の門をくぐってモブらしく、モブモブと歩く。


「アラ七海さん、旦那様は奥にいらっしゃいますよ、こちらへどうぞ」


 マイ・フェイバリット・お姉さまこと、お幸さんに先導されて屋敷の奥へ向かう。なんでこの方、いつもいい匂いするんだろ。


 奥座敷の前でお幸さんが三つ指ついて、


「旦那様、七海さんがいらっしゃいました」

「お幸か、通してくれ」


 お幸さんが正座のまま、襖を開けてくださる。俺ごときに勿体ねえ。ありがてえ、ありがてえ。


 膝ついて拝んでたら、


「何してんの七海」


 おっさんがこっち見てた。お幸さんのお姉さまムーブが尊くて拝んでました、とも言えず、


「まあいいじゃないですか、人は心に無限の自由を持ってるんですよ」

「いや、お前さんがお幸を好きなのは知ってるがな」


 その通りです。お幸さんに伝われ! ぼくのピュアハート! お幸さんはにっこり笑って襖を閉めなさる。部屋には俺と平賀のおっさんが残された。急に部屋から潤いがなくなった気がする。


「お前さんもツラは悪くないんだがな」

「自分で言うのもなんですけど、劣化エグ○イルよりはマシだと思うんですよ」

「俺がツーブロックにしてるのは、顧客の記憶に残るようにだよ。零細だからなんでもするんだよ。そもそもこれは美容師にやられたんだ」


 社会人だといろいろ考えがあるんだな。それ多分、逆効果だと思うけど。そんな話をしながら少し待ってたら、


「もし、旦那様、お武家様がいらっしゃいました」

「お、来られたか。お幸、お茶を頼む」


 ズカズカとお武家さんが入ってきた。とりあえず土下座っとく。足下しか見えないけど、これは身分が高そうな感じだな。足袋からして高級品ぽい。


「ああ、寅吉七番殿、畏まらないで楽にしてくれ」


 イケボでお武家さんが言う。顔を上げて上座のお武家さんと対面する。キリッと結い上げた髷に剃り跡も青々とした月代さかやき、模様が織り出された白い絹の着物、折り目もピシッとした袴、刀や脇差にも凝った細工をしてある。一見地味に見えるが、こりゃ相当高い地位の方が目立たないように意識してる感じだな。


「拙者は貧乏旗本の冷や飯食いの三男坊、徳山新之助と申す。気軽に新さんと呼んでくれ」

「嘘だっ!」


 無意識に今年イチ大きい声が出てた。


「七海、嘘じゃねえことになってるんだよ」

「いや、嘘でしょ?! 貧乏旗本なんて借金まみれで最低限の身なりだし、そんなのの三男坊なんてそこらのヤクザものと大して変わりないじゃないですか!」


 新左さんの一方的なお江戸常識講座(頼んでない)の中で、いかに旗本の台所事情が苦しいかはよく聞かされてる。それに跡継ぎとスペアの次男はまだしも三男て! 育ちきってる三男なんて放逐されてもおかしくないし、実際、一芸を身に着けて働きに出てる人や、ヤクザとつるんで荒みきってる連中なんかの話も聞く。


 あの強面連中から丁寧な挨拶を受ける大家さんからも、旗本崩れには近づくな、なんて注意も受けている。まあ人から聞いた話ばっかりだけどね! ぼくお外に出ないからね!


「お前さんの言いたいことはわかる。わかるが、この人は旗本の三男坊の新さんだ」

「なんでそんなに言い張るんですか!」

「寅吉七番殿、七海と言ったか?」


 イケボお武家さんが少し居ずまいを正して言う。


「俺はそんなに旗本の三男坊に見えないのか?」

「見えません。最初の印象は『やたら高い地位の方が無理して地味に見せてるんだな、きっとお忍びなんだな』です。貧乏旗本の三男坊の実態ってきいたことあります? そりゃひどいもんですよ? 大体その口上だと、め組の親分と知り合いで、身分隠して密かに世直しして、キメの台詞は『その方、余の顔を見忘れたか』じゃないんですか?」


 おっと、一息に喋り過ぎたぜ。だってこの方、暴れん坊の将軍まんまだもん。まさかと思うけど、本当に将軍じゃないよね?


「……平賀、何も話してはないんだな?」

「はい、八番絡みで興味を持ったお武家様、とだけ」


 興奮しちゃったけど、そんな、将軍様が世直しなんかするわけないわ。時代劇はフィクションだからね、設定に無理しかないもんね。


「ばれてしまっては仕方がない。余が八代将軍、徳川吉宗である」

「ここでの話は一切口外しませんのでどうかお許しください。首落とすのは勘弁してください」


 最上級の土下座を披露する。見て、額が畳にめり込むほどの土下座だよ!


 ホントやめて! ゆるめて! 俺の加護、ゆるめて! なんで将軍と知り合わなくちゃいけないんだ、恨みます、平賀のおっさんよ。恨みはしないけどなんとかしてください、加護くれた神様よ。

お急ぎでない方、毛色の変わった此の物語をまだ読んでも構わぬとお思いの方、向後に期待してやろうという方、よろしければ更に下にスクロールして広告下の白星を「ぽちっと」押してやってくださいませんか。


「ぶっくまーく」などもお気が向きましたらお願いいたします。


評価をいただければ、七海が喜んで通報をものともせずに五体投地でお礼に参ります。

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