参之陸 モブ、カツカレーに咽び泣く
さて、戻ってきました21世紀の東京。俺がお江戸に呼ばれた朝と同じ朝に。すごいや(理解放棄)。
おととい、八番を召喚したあとの大僧正に、
「明後日、送還できる日になったら朝早い頃に初めのお社へ行くとよい。神と儂が送って進ぜよう。その日の日没までに、またお社に戻れば、こちらに戻れるようにしておく」
と言われて、喚ばれた時の服と荷物で神社に来たら霧に巻かれて、はい、現世、と。
理屈も辻褄もなにもわからんけど、もういいや。
思考停止の腕はずいぶん上がったと思う。わからないことは、心の棚に自動設置されるようになった。こんなんで大学の講義受けて大丈夫だろうか? 大丈夫だろう。とりあえず家に帰るかね。
おお、懐かしの作業机よ、道具達よ、資料集よ。どこもかしこも作業効率優先のわが部屋よ。これはもはや巣と言っていい、模型趣味の住む巣だ。
自分の部屋を見て感動するとは思わなかった。いろいろ考えてたんだな、俺。
ベッド四割、作業スペース四割、あとの二割は勉強やらその他のスペースだ。こうでないといけない、模型趣味は机一つあればいいというものじゃない。すぐ出かけられるように予め模型・工具関係をまとめておく。
「キモ兄、お母さんに言われたから仕方なく起こしに来たよ…起きてんじゃん。朝食できてるから」
不肖の妹がいきなりドアを開け、用件を伝えるなりバタンと閉めくさる、妹、こと、中1の生意気盛りの敵である。少しはお妙さんを見習えこのやろう。
階下に降りると朝ご飯が出来ていた、トースト、目玉焼き、ソーセージ、サラダにコーンスープ、牛乳。お江戸じゃどんなに金を積んでも手に入らない、普通の現代日本の朝食だ。
「……うめえ、ありがてえ、ありがてえ」
「キモ兄、キモい。なんで朝ご飯食べて泣いてるの」
妹は無視してひたすら貪る。うまい。うまいけど、なんか物足りない。
「米ある? それと漬物ちょうだい」
「まだ食べるの? あるけど大丈夫?」
ママンが信じられないものを見るような目で俺を見てくる。大丈夫です、米食わないと飯食った気にならなくなっただけです。
「成長期だものね、男の子はそうだよね」
違います、お江戸の白米至上主義に馴染んだだけです。それにしても、こっちの米、うめーなー! お江戸はお江戸でうまかったけど、こっちのお米は農家の方々の執念の結晶って味がする。米農家のすごさはこっちもあっちも同じなんだな。さすが経済の単位になることはある。
大学で午前の講義を終えてアキバへ移動して、ソーラー充電器や電池を買い込む。模型関係ももちろん揃える。これだけ模型店あって、しかもそれぞれ特色がある上でやっていけるなんて、やっぱりアキバの客層の厚さはすごいな。
さて、遅まきながら魅惑のカツカレータイムですよ。カツカレーはオーソドックスがよろしい。今日は揚げたてのカツと米の量に重点を置いて、カウンターだけの店を目指す。
食券を買い、狂おしいカレーの匂いに焦れつつ、カウンターに座り、宙のただ一点を見据える。今までの人生でここまでカレーに集中したことがあっただろうか? 今、揚げられているのは俺のカツか、はたまた別の注文か。
別注文のラッキョウが来た後、カツカレー来襲。無我夢中でかっ喰らい、放心状態に陥る。ここまでの食べ物だったか、カツカレーよ。お前は神の食べ物か。今すぐお代わりしたい衝動に抗い、店を出る。
家に帰るまで恍惚の顔をしていたに違いない。気がついたら家にいた。手早く、折りたたみソーラーランタンや寝袋、ヘッドライト、エアー枕、耳栓なんかをザックに詰めていく。アキバでの戦利品や、まとめておいた模型関係を持ち、夕暮れ前にまた神社へ。
さあ、お江戸二ヶ月目の始まりだ。ラーメンは買い忘れました。
「七海よ、ぶっくまーくをなされた方が増えたようじゃぞ」
「ふひっ、五体投地ですね! 準備万端なんで行ってきます! ふひひ、待ってろ巡回の警官とご近所の皆様方! めざせ全国の不審者情報!」
「信心深い行いをするものは見ていて気持ちが良いのう」
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「ぶっくまーく」などもお気が向きましたらお願いいたします。
評価をいただければ、七海が喜んで通報をものともせずに五体投地でお礼に参ります。




