壱之伍 モブ、まだまだ安心が遠い
「で、モブはいいんですけど、俺って元の世界に帰れるんでしょうか?」
こういう質問ってラノベっぽい。前半で台無しだけれど。
「そこは先に謝っておこう。すまんの」
大僧正が頭を下げた。無理か!無理なのか!
非生産人間とはいえ、一応家族もいるし、友人だっている。バイト先にも迷惑かかるし、サークルにだって。
脳裏に浮かぶ顔、顔、顔。チクショウ回想に女子がいねえ! 妹と腐女子は女子じゃないのよ!
「月に一度しか帰る機会がないのじゃよ。」
サークルもバイト先も男ばっかりだし、店の常連は、そうだ、商品全部戦車にしよう、とか言ってくるおっさんしかいねえし。
スケール物もキャラ物も両方あるからなんとか儲け出るんだよ、ガ○ダム周りの動く数わかってんのか。まあ最近は某アニメのお陰でまだまだ戦車が売れるんですけどね、ありがたい話です。ガ○パンはいいぞ!
「こちらの星辰の条件が、あちらと一致せぬと召喚も送還もできんのじゃ。そこは申し訳なく思う。」
ところで模型女子とか巷で話題になってるけど、どこにいるんだよ。本当にいるなら連れてきてくださいお願いします。
大体、模型イベントでも企業ブースの客寄せに使われてる女子しか見たことねーぞ。まんまと寄っていくんですけどね。
女子が通り過ぎた時にフワッと有機溶剤の匂いが漂って「あ…(トゥンク)」とかなるのかよ。なりたいよ。
「聞いとるかの?」
「女子が塗る塗料はやっぱりアクリル派が多いんですかね?」
「何を言ってんだかさっぱりわからん」
おっさんのツッコミで現実逃避から目が覚めた。えっと、なんでしたかね?
「月イチで帰れるから安心しな」
「あ、帰れるんだ」
「話聞いとけよ」
ごもっとも。
「お前さんは来たばっかだから、いっぺん帰るにも一月ほど待たなくちゃいけねえ」
あっさり帰れることが判明。異世界転移者に優しい仕様だった。
「戻った時点で時間は経ってないから行方不明扱いにもならないし、そもそもこっちじゃ死なねえしな」
全体的に優しすぎるなおい! え? 死なないの?
「今のお主は言ってみれば依代に魂が入っているようなものなのでな」
大僧正が説明してくれる。
「えっと、こっちのなにかに憑依してるような形ですか?」
「その理解で良い。これはいわば試しなのじゃよ。だのに危険があってはあちらの神仏に申し訳が立たんからの。安心立命じゃ」
「荷物や服は転送されてるらしいからなくすなよ」
あ、元の世界にもちゃんと神仏いるんだ。見たことないけど。しかし戻った時点でタイムラグはないのか。理解は出来ないけどありがたい。
それと荷物や服は大事にしないといけないな。あれ?じゃあ今の向こうの俺って裸なの?やだ、ついに開放の時が?
そんな俺のオープンマインド問題はまた改めて考えるとして、
「向こうの神仏も関係してるんですか?」
「関係しておる。そもそもお主は加護を持つゆえこちらに呼べたのじゃぞ?」
「え、覚えがありませんがどなたからの?」
「毎朝、参拝をしとるじゃろう?戻ったらきちんとお礼を申し上げると良い」
ここに来てビッグニュース。俺ちゃん実は加護持ちでした! 毎朝欠かさず、いや、ちょくちょく欠かしてたけど、参拝しててよかった。
よかったの?
「父御が最近見えぬと心配しておられたぞ? 体でも壊したか?」
1000年生きてきた人に健康の心配されてるよ、マイダディ。
メタボって膝が辛くなってきたから参拝やめました、コンドロイチン始めましたとか絶対言えねえ。
「父は息災ですが、少し健康上の理由がありまして…」
社交辞令風味で理由をぼやかす作戦に出る。腹出て自分の足元見えねえと爆笑してるダディの姿は伝えられん。
「そうか、たまには顔を見せると神も喜ばれる」
「そう伝えます」
我が父は俺の加護の大元にナチュラルに非礼かましてたようです。
それよりもここまでの登場人物が男ばっかりなのはいかがなものかと思います。
「やれ七海よ、この下の白星はなんじゃ?」
「大僧正、あれを黒くしてもらえるとポイントが付くのです」
「折角白星が5つも並んでおるのに黒星にするのか。勿体無い、勝ち越しも狙えるじゃろうに」
「いや相撲じゃないんですから」
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