参之肆 モブ、お姉さま方とご挨拶する
※七海は対象がお姉さんなだけで、自身が変態気味であるという自覚はありません。
「大僧正!こいつ即帰して!」
人斬りガチロリコンとか、近年、稀に見るサイコパスじゃねーか! なかなかいないよ、ここまでのやつ。見て、この目。やるよ、こいつ、やる奴だよ。キツネがめっちゃ怯えてるよ!
「しかし人選はそれぞれの神仏がなされること、儂らの勝手はできぬ」
「七海、こっちに青少年育成条例はないんだ」
いや、大僧正に平賀さん、それ以前にこいつ倫理観がバグってるよ。大僧正もたいがいバグってるけど、いいの? 世の中にお役立ちの皆様の寅吉ブランドに傷が付く可能性、大ありだよ?
「ふむ、しかし、こちらの法度に触れねば問題ない。そして人でなく、怪異を斬れば良い」
「吉原でも禿に…、ああ禿ってのは女郎の身の回りの世話をする女の子のことな、そういう子たちも月のものが始まれば、客取らせてんだ。案外、問題ねえんだよ」
江戸時代ってホント異世界だな、殺人以外は割となんでも許容すんのな。第二次性徴、即、売り出しとか、ここは異世界の江戸だけど、俺のご先祖の江戸とまあまあ近いはずだよね?
「殺人以外は大丈夫なんですか?」
「それに火付け、押し込みは大罪じゃの。故に火盗改めという役職がある」
放火や強盗専門の取り締まり集団、鬼平のあれですね。それにしてもこの八番は野放しにしたら、色々やばいのは目に見えてますよね?
いや、でもこっちでサイコパスな欲望を満たせば、こいつが向こうでおとなしくしてる可能性が? 逆にこっちの行動に慣れきって、無意識に向こうで犯罪を犯すかも? んー考えても仕方ないな、これ。あいつを選んだ神仏を信じるしかないのか。
別に俺が八番の行動の責任取るわけじゃないし、それでいいや。
「大丈夫よお、この子はこっちで矯正するから。あなたが七番ね、よろしくねえ」
ムチムチの山伏お姉様がご挨拶なさってくださる。恐縮です、俺も調教してください。
「七番の気が乱れてえらいことに! 鳩摩羅、あんたに向こうとるで! 気ぃつけや!」
クールビューティ(じゃりん子)がまたもやニュータイプを発揮してらっしゃる。この山伏お姉様はクマラさんとおっしゃるんですね。それにしてもクールビューティ(怯え顔)は俺の情欲に反応してるんだろうか? 大丈夫です、あなたのことも忘れてませんよ。
「あっ! 嫌な気がこっち来た! やめんかいな!」
「保名殿、落ち着いてー。童貞の妄想にいちいち反応しても仕方ないよー」
おうふ、ナチュラルに罵倒してくるこの方は、
「七番君、はじめましてー。女人高野の日照尼ですー。あなた童貞だけど神威がすごいからちょっと自重してねー」
なんで上向いてるのか、わからないくらいの魔乳と、にこにことした母性と、自然な罵倒が矛盾なく一人の中で共存してる。これも俺の夢に見たお姉様ですね。
「保名殿が気持ち悪く感じるのもわかるわー。これは強力だねー」
あははと笑うピンク髪のダイナマイトお姉様。尼さんの格好が背徳感をそそりますね。よろしければ、いろいろお願いしたいです。よろしくなくても、お願いしたいです、土下座ならいつでもしますよ!
「ないから七番君も落ち着いてー」
ないのかー、残念。長い目でワンチャン狙うしかないか。切り替えよう、好感度はマメに稼がねば。
「土御門さんはお久しぶりです。さよちゃんも河童も元気です。あとのお二方は初めまして、寅吉七番こと、宇野七海と申します。気軽に七海と呼んでください」
「さっきも言ったけど、真言宗の日照よー。灌頂での仏様は大日如来だから法名が日照なのー」
にこにこ罵倒お姉様が自己紹介してくださる。相変わらず江戸のお人の自己紹介はわかんねえな。
「ほう、灌頂での護持仏が大日如来か、最初の儂と同じじゃの。唐での慧果師とのことを思い出すの」
「はいー、空海師と同じ護持仏とは勿体無く存じますー」
「いやいや、縁とはそういうものじゃよ」
突然、大僧正が割り込んでこられて、なにやら同窓会風味なトークを繰り広げてらっしゃる。真言宗あるあるトークだろうか、俺は置いてきぼりですね。
「七海くん、だっけえ?初めまして、あたしは鞍馬の天狗の鳩摩羅よお、よろしくねえ」
え? 天狗? 山伏じゃなくて? え? 見た感じ、山伏ですよね?
「ここなら大丈夫でしょお?」
「そうじゃの。皆の者、ここで見たことは他言無用じゃ。朝廷と幕府の使者殿もよろしいか?」
大僧正、無駄に圧が強いですよ。ほら、使者さん方も青い顔で頷くしかないじゃないですか。
「じゃあ正体現すわねえ」
ばさり、とムチムチお姉様に漆黒の羽が生えた。そのままふわりと浮かんでらっしゃる。
「鞍馬寺の天狗、鳩摩羅よお。寅吉八番の指南役を大僧正に命じられて馳せ参じたわあ」
土御門のお姉様はいつも通りで、魔乳お姉様は大僧正と同門で、山伏だと思ったお姉様は天狗だった。
放置されてる八番はポカンとしてる。
そりゃそうだよね。自分の意思と関係なく事態が進んでいくの、早いこと慣れた方がいいよ。
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