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このEDOはフィクションです  作者: 石依 俑
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参之弐 モブ、八番への嫉妬に身を焦がす

前回、寅吉八番がやって来ると言ったな。あれは嘘だ。

 締め切って薄暗くされた本堂、微かに煙が漂い、漏れる光の筋がそこかしこに見える、そんな中、曼荼羅の前に大僧正が威儀を正して坐しておられる。


 曼荼羅の中心には八番の形代(かたしろ)が置いてある。あれが俺の体と同じものか。召喚される英雄豪傑は男のようで、もちろんもろちんである。

 何? 召喚ってこんな本格的な舞台装置を整えるものなの?


 俺んときはもっと簡単だったじゃん、神社に霧がふわふわしてただけじゃん、こんなお坊さんたくさんいなかったじゃん、お高い蝋燭いっぱい焚いてなかったじゃん、かかってる経費が段違いじゃん?


 俺が不満げに平賀のおっさんを見ると、おっさんは小声で、


「仕方ねえだろ、お前さんのときは神様がほぼ一人でやっちゃったんだから。そっちの方がすげえことなんだぞ」

「平賀さんのときもこうだったんですか?」

「いや、場所はここだが、もっと簡単だったな。今回は朝廷と幕府から使者が来てるんだとよ」


 なるほど、大僧正の後ろに「麿は〜でおじゃる」って言いそうなお公家さんみたいなのと、かみしも着てるお侍がいる。


 あ、クールビューティ(ポンコツ)お姉さまも控えてる。前に大僧正が言ってた仕事が来たんだね。それに髪がピンクの巨乳、いや魔乳の尼さまと、赤髪でムチムチの山伏みたいなお姉さまも一緒にいらっしゃる。なんだそれ、童貞の夢かよ。むしろ俺の夢かよ。


「陰陽師と真言宗と修験しゅげんだとさ、八番の付き人だな」


 なにそれずるい、お三方ともそれぞれに魅力的なお姉さまじゃないですか。俺にもこういう三者三様にエロい付き人を所望したい。もしくはお付き合い願いたい。


「この嫌な気! 七番か!」


 クールビューティ(賭け事狂い)がニュータイプみたいなこと言ってる。


「お前さんにゃ妙がいるだろが。長屋住まいなんだから無理言うな、そもそもなんのお役目もないんだから」


 いやまあそうなんですけどね、そのなんの役目もない俺の根付で荒稼ぎしてるおっさんはなんでしょうね?


「俺の根付で稼いでるそうですね」

「勘違いすんな、白井のご隠居に頼まれてキャンペーン張っただけで俺はさほど儲けてねえよ。俺のお役目は江戸にない手法での経済の活性化だ」


 それはわかりにくい役目だな。この人が裏方気質なのは職業の影響もあるのかな。


 こそこそ喋ってたら突然チリーン! と涼やかな音が堂宇を満たす。大僧正が手にした宝具を鳴らしたようだ。儀式が始まった。


オン・アボキヤ・ベイロシャノウ・マカボダラ・マニ・ハンドマ・ジンバラ・ハラバリタヤ・ウン


 遅れてお坊さん方の真言唱和が続く。


オン・アボキヤ・ベイロシャノウ・マカボダラ・マニ・ハンドマ・ジンバラ・ハラバリタヤ・ウン


 唱和がうねる様に大きくなってくる。お坊さん方がトランス状態になってクライマックスを迎えると、曼荼羅に置かれた形代に光が集まってフラッシュのように光る。うおっ!まぶし!


「あの、ここはどこですか?」


 八番が来たようです。俺もこんな風に迎えられたかった。お姉さま方に付き人になってもらいたかった。

 この世は持つものと持たざるものが、予め決められているとでも言うのか。それが神仏の選択か。許せぬ、ぶっちゃけ嫉妬で焦げそうです。羨ま妬ま憎らしい。

お急ぎでない方、毛色の変わった此の物語をまだ読んでも構わぬとお思いの方、向後に期待してやろうという方、よろしければ「ぽちっと」押してやってくださいませんか。


「ぶっくまーく」などもお気が向きましたらお願いいたします。


評価をいただければ、七海が喜んで通報をものともせずに五体投地でお礼に参ります。

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