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このEDOはフィクションです  作者: 石依 俑
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弐之拾玖 モブ、根付を番頭さんに見せる

 そんなこんなでお江戸に来て10日目。やっと根付が出来上がり、納品へ向かうことになった。…店どこだっけ。そう言えば作業で引きこもってて、地理を全然把握してなかった。困った。


 そうだ、こういうときは平賀のおっさんだ。あの人の屋敷の場所ならわかる。さあ行きますよ、猫神使。


「氏子の寅吉よ、猫のことは気にせず出かけると良い」

「気にしますよ、あれからずっと俺んちにいるけど神社はいいんですか?」


 そう、この猫神使、何が気に入ったのか、俺んちであれからずっと過ごしている。大家さんに猫飼ってもいいか聞いたら嫌な顔されたけど、新宿の神使だと伝えたらOKが出た。まあやってることは普通に猫なんだけど。


 小さめの座布団買って、爪とぎ用の木材も手に入れた。神使だからか猫又だからか、トイレも食事も必要ないらしい。おやつはちょくちょく催促されるけど。消臭猫砂も手に入らない江戸で、猫トイレの夏の臭い地獄は勘弁願いたいところだから、そこはすごく助かった。


「来てくれたら煮干しと削り節買ってあげますよ」

「では往くとするか。氏子の寅吉よ、肩を借りるぞ」


 スタッと俺の肩に乗ってくる猫神使。軽いなー、神使だからかな? ほとんど重さを感じない。


「して、どこへ向かう?」

「どこ行っていいか分からないんで、まずは分かる人のとこへ行きます」

「うむ」


 器用に俺の肩の上で、爪も立てずにバランスを取る猫神使。歩いても大丈夫なのかな、これ。


 気を遣いつつ、おっさんの屋敷へ向かう。歩いても大丈夫でした。謎のバランスでリラックスしてらっしゃる。

 屋敷に来るの2回目だけどやっぱデカイな、いいなー屋敷。羨ましがりながら声をかける。


「すいません、平賀さんはいらっしゃいますか」

「はーい、お待ちを」


 お幸お姉様が出て来てくださった。ありがてえ。


「アレ、七海さん、旦那様はお出かけですけど言伝なら承りますよ」

「いえ、根付ができたので納品しようかと。ただ近江屋さん?の場所が分からなくて……」

「合点承知。不祥、この幸がお連れ致しますよ」


 土御門のクールビューティが思いの外ポンコツだったからか、お幸さんがとても頼もしく思える。よろしくお願いします、なんなら貰ってください。


「あら、可愛い猫ちゃんだこと」


 猫神使がお姉様にモテてらっしゃる。羨ましい。マジで羨ましいです。血涙出る思いです、チクショウ。

 当の猫神使はといえば、眠そうにあくびしてらっしゃる。自由か。


「では参りましょうか、七海さん」


 俺の袖をチョンと摘まんで先導してくださる。


 これ!これですよ、この奥ゆかしさ! 胸を押し付ける描写とか、よくあるけど、この奥ゆかしさこそお姉様! これぞ萌えですよ! 俺に好意なんか微塵もないだろうけど!


「氏子の寅吉よ、(こじ)らせておるのう」


 猫神使は黙ってて!


 近江屋さんに着くとお幸さんが番頭さんを呼び出してくださる。


「お、あんたはこないだの。出来たのかい?」

「はい、詰まってない柘植なので割れにくいように作りました」


 材料の目利きもできますよアピールもしておく。過大に評価されるのも困るけど、侮られるのも同じくらい困る。まあ目利きしてくれたのはさえちゃんなんですけどね。皆さんのお陰で生きてます。


 番頭さんは俺の根付を()めつ(すが)めつしながら、一言ポツリと。


「ところでこりゃ一体なんでえ」


 そりゃわかりませんよね、日本にはいないんだもん。そのリアクションは予想してたので、準備していた紙を広げる。


「それは?」

「この島々、この小さな島四つがこの国になります」

「まあ、七海さん、それはひょっとして?」


 そう、簡単な世界地図です。織田信長は世界地図を宣教師から見せられたというし、あるのは知ってるだろうけど、お偉いさんはともかく、庶民は裕福でも見たことはないだろう。こっちの世界も大して地形は変わらんだろうと思ってます。アメリカも発見されてたはずだよね?


「ここが日本、この辺が唐の国、オランダがここら辺、ここが、えーと、お釈迦さんが生まれた国で……」


 インドをどう説明したものか、迷ってお釈迦さんを引き合いに出す。


「天竺か」

「そう!それです。で、このトカゲ、カメレオンと言いますが、天竺より西、オランダよりは東のこの辺に住んでいます」


 図鑑には原産地・ヨルダンって書いてあったからアラビア半島の左上あたりを指し示す。


「ふむ…細工としては悪くねえ。珍奇なのもいい。だが買う客がいるかはなんとも…」


 ダメですか、地図でプレゼンしても足りませんか。プロのお眼鏡には叶いませんか。


「それを地図込みで金一分(いちぶ)で買おう」


 突然どっかの爺様が割り込んできた。え? 誰?


「二度目の五体投地はどうじゃった? ちゃんと礼を言えたかの?」

「自腹のカツ丼、おいしかったです」

「カツ丼?」

「ミランダ警告もなしに取り調べ直行ってのは如何なものかと思います! 取り調べに透明性を!」

「何事もなかったようでなによりじゃ」

「めっちゃ捕まったよ! またお前かって言われたよ!」

「ところでぶっくまーくとやらもされたようじゃぞ、そのままお礼に上がるが良い」

「ちょっとでいいから休ませて!」


もちろん作者も感謝しております。五体投地は七海のでご勘弁ください。


お急ぎでない方、毛色の変わった此の物語をまだ読んでも構わぬとお思いの方、向後に期待してやろうという方、よろしければ「ぽちっと」押してやってくださいませんか。


「ぶっくまーく」などもお気が向きましたらお願いいたします。


評価をいただければ、七海が喜んで五体投地でお礼に参ります。

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