壱之肆 モブ、転生者にも邂逅す
なぜこの異世界(?)に俺が呼ばれる必要があったのか。
自分で言うのもなんだが、これだけ非生産的な人間はそうそういないと思う。
時間があれば模型いじってるし、バイトは濃いオタク向けおもちゃ屋のプラモフロアだし、挙句サークルでイベント向けの原型に手を出したら、1年のくせに原型か、いい意味でも悪い意味でも、こいつはもうダメだな、とか先輩に笑われたし。
美少女フィギュアの塗りに命かけてる人に言われたくないです。ぱんつのシワの造形に感動したからってわざわざ見せに来ないでください。
「ぶはっ!」
小僧さんが突然こらえきれなくなったように吹き出す。
「え?小僧さん?どうされました?」
おっさんがあちゃーって顔してる。
「大僧正、黙ってるんなら最後まで我慢してくださいよ」
「いやいや、この者の心中に現れる者が実に珍妙での、失礼した」
ん?
「すまぬの、新しい寅吉よ。儂がお主を召喚した天海じゃ」
んんん?
おっさんを見る。
なんかスマン、みたいな身振りしてやがる。
「あーゴホン、その御方がお前さんの召喚の実行者、天海大僧正だ」
なに言ってんだこのおっさん。
天海ってあれじゃん、確か家康のアドバイザーやってた爺ちゃん坊主じゃん。今が江戸何年かは知らないけど、どっちにしろ爺ちゃんじゃん。ショタじゃないじゃん。むしろあの世じゃん?
「儂は天海七世じゃ。と、同時に空海三十一世でもある。」
そう言うとちょっと光ってた小僧さんの体が金色の光に包まれる。なにごとですか!
眩い光が収まったあとには、金襴緞子のラグジュアリーな袈裟と頭巾に包まれた小僧さんがいらっしゃる。
なるほど、天海大僧正と呼ぶにふさわしい、実に威厳のある姿だ。
そして天海は空海だったのか。
天海、
空海、
天…
空…
そうか!
「いや、そうかじゃねえ!」
「ほんに面白い男よのお」
小僧さんいや大僧正か、はケラケラ笑ってらっしゃる。
もう俺の役割とかどうでも良くなってきた。
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「ちょっとすいません、情報量多すぎるんで一旦休憩させてもらえませんか?」
「おお、これは気が付かぬですまんの、これ、客人に茶菓子など持て」
若いお坊さんがお茶とお菓子を持ってきてくれた。ありがとうございます、まんじゅう美味しいです。おっさんはお茶だけもらって、ポッと指先に火をつけてキセルを吹かしてる。甘いものは嫌いなのかね。
俺はまんじゅうをモッチャモッチャ頂きながら、さっきの会話を反芻する。
反芻する…
あ!
「小僧さん、いや大僧正か、人の心読めるのか!」
「まあそうじゃの」
「気になるの、そこなのかよ」
いや、おっさん、そう言うけど、俺の赤裸々キララな心の内を面白おかしく見てたってことでしょ?プライバシーの侵害、かつ心外なお恥ずかしい話である。ぼくだって思春期なんだ。
「安心せい、検分は終わったのでの、もう見ぬよ」
「本当に?」
「天耳通というのじゃが、心を読むというのは存外疲れるものでな。集中も必要ゆえ、もうせぬよ」
ふむー、一応信じるか。信じようと信じまいと結果が変わらんのは悲しいとこですね。
「ところで、小僧さんが天海大僧正って本当なんですか?」
この小僧さんが天海だというからには、世襲制か、指名制なのだろう。僧侶が結婚できるのは、確か江戸時代では真宗以外は禁止のはずだったから指名制なのかな?
それにしても10歳位のあの年で、この落ち着きは異様だとしか言いようがないが。
「あー、それな。転生なさってるんだってさ」
「はい?」
転生とか出てきちゃいましたよ?
「転生。ダライ・ラマは知ってるか?」
そりゃダライ・ラマは知ってる。チベットだよね。でもなんでダライ・ラマ?
おっさんが言うには、転生はチベット仏教では重要なシステムらしい。修行した僧侶が次の人生で更に高みに登るため、必須とされる技術だそうだ。
もちろん悟って仏になった人もいるわけだが、その後も後進の指導のために転生を繰り返すのだという。
「活仏とか菩薩って感じだな。チベットじゃ尊いが珍しくはないそうだ。トゥルクとかリンポチェつったかな」
「なにそのファンタジー」
まさかのファンタジーが地球上にありました。
「じゃさっきの変身?みたいなのは」
「あれだ、大僧正はもう半分仏さんみたいな方だから」
「それはそれは。まだお若いのに、おいたわしい」
「もう1000年ほど生きておるが、半分仏というのはそういう意味ではないからの」
1000歳ぐらいの人にツッコミもらっちゃった。これ世界記録ではなかろうか。
「さて、なぜお主がこちらに呼ばれたか。これには当然、理由がある。」
小僧さん、もとい大僧正が居住まいを正してこちらを向く。
「お主にはこの世界で大衆として生きてもらう」
「いやっほおおおおうううい!!!大得意ジャンルだぜええ!!!」
ちょっぴり悲しくなってきた。
此の世には「ぽいんと」と言うものがあるそうで御座います。
下の方に御座います、清き白星を黒き星に変えることで作者めに「ぽいんと」なるものが入るようです。
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