弐之拾伍 モブ、猫神使と相見える
結局昨日はキツネを追い返したあと晩御飯の時間までひたすら作業してた。……楽しかった。やっぱ造形作業は最高だわ。思い出すだけでうっとりしちゃう。よし、では今日も、
「それでは新宿へ行くぞ!」
スパーンと今日も朝から元気ですねキツネ。ところで今なんと?
「昨日話したであろ?」
なんだっけ? 来たのは覚えてるけど、なんか話したっけ?
「新宿の受持神の神使と話したところ、お主に興味があると言ってたぞよ。行くかや?」
あー、そんな話してたね? 愚問。猫耳ふにゃーんなんぞモッフモフにしてやんよ。でも作業あるからまた今度ね。
「行こうぞ! 連れて行くと言ったのじゃ、神使の約束は絶対なのじゃ!」
えー、でも昨日は引き下がったよね?大した約束でもないんじゃない?
「いいから行くのじゃ!」
尻尾膨らませて威嚇してやがる。その尻尾剃るぞこのやろう。
まあ良かろう。昨日集中したから作業の目処は立ったし、猫の神使には興味がある。
長屋を出てかれこれ2時間ほど歩いてる。キツネは140cmくらいしかないのに結構足が速くて、ついていくのがやっとである。この足の速さで2時間って、これ8km以上歩いてるんじゃないかな。
江戸の境目の大きな門を出る。この門が江戸市中との境らしい。
「そろそろ新宿じゃぞ」
新宿ってこんな田舎だったの? なんかうらぶれてますね。ここら辺、たぶん新宿駅の近くだよね?
「ここ新宿? 俺の知ってる新宿はもっと派手な街なんだけど」
「まあ今はこうじゃが、少し前まではたくさんいた遊女目当てに人が集まっておったのじゃがな」
「今は変わったの?」
「ここは新参の宿場町だったのじゃよ。地名に『宿』がついておろう?」
あー、そう言えばそうだね。地名の由来なんて考えたこともなかった。遊女って娼婦ってことか。プロのお姉さま方はどんな感じなのだろうか。やっぱ見てすぐわかるくらい派手なのかな。
「七海は遊女を買いたいのかえ?」
「ねえよ」
いや、なくもない、かも知れない、とも言い切れない、と断言するのも難しい。きれいなお姉さまに「今夜どうだい?」と囁かれたら秒で落ちるね。そのくらいには自分の理性に自信がない。
でも童貞としましては、お姉さまにリードされながらのピュアな恋愛に憧れる。病気怖いし。
そうこうしてるうちに小さな神社の前についた。雷電神社と書いてある。なにこれカッケー、雷電とか、雷様でも祀ってあるの?
「おーい、寅吉を連れてきたのじゃ!」
「よくぞ参られた、異邦の客人」
登場した猫の神使。
おい、まんま猫じゃねーか。三毛ですね。立派なふぐりですけど、まさかの雄三毛ですか?
「左様、雄三毛の猫又である」
ほう!ほうほうほう!なんというレアリティ。三毛で雄で猫又とは。ガチャならUR確定、南極越冬隊なら終生マスコット待ったなしですよこれは。うにゃーんな猫巫女を期待してましたが、これはこれで!
「すいません、失礼ですが撫でさせて頂いてよろしいでしょうか?」
「許す、異邦の客人。腰と尻尾は触るでないぞ」
ネコスキーなら初対面でデリケートゾーンは避けるのは常識。ご心配なく。まずは目を合わさず、ゆっくりまばたき。そっと指を差し出し、ご挨拶の指すんすんオナシャス!
指すんすんからの顎掻き、頬ぐりぐりと同時に額を下から上へカリカリ掻く。
「おっ、ほっ、異邦の客人、これはなかなか」
顎上がりましたね、喉掻きますよー、ゴロゴロ来ました!ゴロゴロゴロゴロ、おっとお腹見せましたね、だがファーストコンタクトで腹を触るのは正しいネコスキーの行いではない。前足の脇を掻くに留める。
そのまま側面を撫でる。いいですねー、伸びますねー。余韻で後頭部をゆっくり掻き上げる。猫の後頭部は世界の至宝であると言えよう。
「おほー、異邦の客人、なかなか猫の扱いを存じておるな。褒美に加護を授けよう。汝の望むところに鼠は現れない」
鼠除けの加護まで頂戴しました。長屋住まいなんで助かります。
「ありがとうございます。またお邪魔させてもらってもよろしいですか?」
「良い。加護を授けたからには、もはや異邦の客人は我が神の氏子も同じ。猫もまた汝の住処に行くであろう」
え、来んの。いや、ありがたいんですが、よろしいので?
「キツネも行くのであろう。ならば猫も行くが道理」
そういえばキツネはどこ行ったんだろう。
「口惜しい、口惜しいのじゃぁ!!」
なんか怒ってるというか、NTRたみたいな顔してますね、なんでまた。
「キツネの矜持に賭けてモフられるのは妾のはずだったのじゃ」
あーまあね、普通ならそうだよね、俺がキツネキング先輩の後輩じゃなければね。あとネコスキーじゃなければね。仕方ないね。
「おい!モフれ!せっかく人の姿の神使がおるのじゃ、尻尾を、キツネ耳をモフって堪能せい!モフられて嫌がりながらも嬉し恥ずかし気味の妾を見て、なんだ、満更でもないようだな、とか言え!おら、存分にモフれ、モフらんかいぃぃ!」
ははは、ノーセンキュー。
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