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このEDOはフィクションです  作者: 石依 俑
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弐之拾肆 モブ、初めての日常

 長屋に朝日が差し込む。目が覚めたので汲み置きの水で口を濯ぎ、顔を洗う。

 

「七海さん、朝餉ですよ」

「ありがとうございます、いただきます」


 お妙さんが差し入れてくれた朝ごはんを食べる。味噌汁、ご飯と漬物。朝は炊きたてのご飯が食べられるので、おかずは漬物で十分。なんでも朝一番に夜まで食べるご飯を炊いて、あとはお櫃に入れるそうだ。朝早くからありがとうございます。


「お妙さん、今日は誰が来ても取りつがないでくださいね」

「はい。あ、平賀さんや寛永寺の方、奉行所の方も、ですか?」

「それだったら呼んでください。でも基本的に今日は家で作業をします」

「はい、お邪魔いたしませんよ」

「お願いしますね」


 やっとだよ。やっと四日目にして俺に託されたミッション “モブとして生きる” を始められるよ。

 とりあえずはこの柘植だったっけ、腕試しにもらった材料。これを手持ちの工具で、どこまで加工できるかを検証しなくちゃいけない。


 まずは柄をカットして取り回ししやすくしたデザインナイフではしっこを削る。さえちゃんは脆いって言ってたけど、そこそこ固い。固いけど彫ったり削ったりは一応できる。替刃も充分ある。よしよし。 

 これならエッチングソーもイケるかと思ったけど、0.1ミリの薄いノコ刃がぐんにゃり変形するんで角を切り落とすのは無理だった。これは最後の細工用だな。


 形を大まかに取るにはクラフト鋸が一番良さそうだ。で、デザインナイフとヤスリで形を整えて、エッチングソーで細工を入れていく。とりあえずそれでやってみよう。


 次にヤスリ。細い棒ヤスリが手持ちにいくつかあるけど、ダイヤモンドヤスリだから問題はないね。目詰まりには気をつけないといかんけど。仕上げの耐水ペーパーも400、600、800、1000番まではあるし、木材だから十分だろう。


 材を固定するにはクランプがあればいいんだけど、今は持ってない。仕方ないので滑り止めシートを10センチ角に切ったものを机に敷いて作業台とする。簡単だけどこれがあるとないとじゃ、固定に使う力がぜんぜん違う。


 さて、何を作ろうか。ここの人たちって好奇心旺盛だから、珍しい生き物でも作ってみようかな。もちろん江戸には存在しない生き物だ。

 何がいいかな、とスマホのオフラインで使える図鑑を見ていく。模型の追加ディティールに悩んだときなんかによく見るんだけど、意外なものがモチーフに使えたりするし、色使いの参考になったりする。


 生物のモデルは作ったことないけど、生物的なフォルムのメカなら作ったことがある。初めて作るものってワクワクするよね。


 お、これいいんじゃね? 細いパーツもあるけど、こう木の上を這うように造形したらイケるんじゃなかろうか。実用品だから荒く扱っても折れたり壊れたりしないように作らなきゃ。今までにない注意点だからこれはこれで面白い。


 ちなみにプラモでも、細いパーツや鋭いエッジを安全性を考慮して形をアレンジして、金型に起こすメーカーもある。俗に言うバ○ダイエッジというやつである。あの感じで考えていこう。


 あー楽しい! 模型のことだけ考えるのたーのしー!! これだよこれ、手と頭動かしながら完成形が徐々に見えてくるこの感じ! いろんな騒動がありすぎて疲れ切ったけど、模型は心の癒やしだ! 太陽だ! 模型趣味バンザイ!

 うざい先輩方も、うざい薀蓄垂れてくる客も今なら許せる。第二次大戦の戦車の作戦方面ごとの違いなんて知らねえよ! でも許せちゃう!


 お昼ご飯もお妙さんが弁当持たせてくれてるし、今日は夜まで模型三昧だヒャッハー!


「七海よ、猫の神使と話をつけたのじゃ!」

「ダ、ダメです、キツネ様! 今日は誰も通すなと……あの、七海さん?」

「七海?」


 面白え、いつも使ってるパテなんかじゃ、刃を入れる方向なんて考えたこともなかったけど、木目の方向で結構刃先の抵抗が変わるんだな。と、いうことはこっちじゃなく、こっちを正面にする方がいいのか。

 やべえ、テンションブチ上がってきた。


「なーなーみー? 妾が来たぞー?」


 なるほどなるほど、こう刻むとここが割れやすくなるのか、じゃあこうか。あーもう! 楽しいなあチクショウ!


「七海よ! 妾が来たぞ!」


 おっと、削り過ぎそうになった。一発勝負のこの緊張感! たまらんなあオイ!


「七海よ!」

「あれキツネ、何しに来たの? 今日は相手しないよ?」


 いつの間にうちに来たの?


「七海さん、さっきからキツネ様が呼んでらっしゃいましたよ?」


 お妙さんもいらしてたの? 集中してたからわかんなかった。ゾーンに入っておりました。


「そんでキツネ何しに来たの」

「新宿の猫神使と話をつけたのじゃ! 来るかや?」

「行かない」

「なんでじゃ!」


 いや、そりゃ作業が佳境に入ってるからじゃん。ネコスキーとしては興味津々だけれども、今じゃねえだろ。

お急ぎでない方、毛色の変わった此の物語をまだ読んでも構わぬとお思いの方、向後に期待してやろうという方、よろしければ「ぽちっと」押してやってくださいませんか。


「ぶっくまーく」などもお気が向きましたらお願いいたします。


評価をいただければ、七海が喜んで五体投地でお宅に参ります。

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