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このEDOはフィクションです  作者: 石依 俑
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弐之拾参 モブ、三日目にして疲労困憊

 もういいよ。

 もういい、この世界は事務所総出で俺の安心を壊しに来るんだ。もう今日は根付作るの諦める。

 気がついたら夕方だし。江戸って夜になったら暗いままなんだよ。照明とかないの? ってお妙さんに聞いたら行灯をつけてくれたんだけどもね。


 なにこれ、豆電球のほうが明るいんじゃないの? ってくらい暗かった。


 もはや明るさじゃなくて暗さだよ。江戸の人、こんなんで作業するの? なんか油の燃えてる匂いは魚臭いし。どうやら江戸の庶民は鰯の油で行灯つけるらしい。なんでだよ、なんで食べたら美味しい鰯で灯りつけるんだよ。お江戸驚異のメカニズムだよ。ろうそくは?って聞いたらお高くてそうそう使えないんだってさ。


 1ヶ月後に帰れるんだっけか。次来るときは絶対ソーラーLEDランタン持ってこよう。あとヘッドランプも。うちがキャンプ趣味の家で良かった。


「それで大僧正、俺が呼び出されたのは何の用事だったんで?」

「おお、平賀、待たせたの。」


 そうだ、平賀のおっさん呼んでたんだ。…なんで呼んだんだっけ? なんか呼ぶ理由があった気がする。


「お主、絵師に渡りはつけられぬか?」

「まあ、懇意の版元に言えば絵師の紹介ぐらいはしてくれるでしょうが、またなんで?」

「うむ、ここに土佐より来たるいざなぎ太夫がおっての、絵師の修行がしたいそうじゃ」

「ちょっと待ってください、なにがどうなって絵師の修行なんです? いざなぎ太夫ってなんですか?」


 大僧正が今回の顛末を説明してくれてる。おっさんは順調に頭と胃を抱えてます。毎度すいませんね。この人こんな役回りばっかだな。


「なあ七海、お前にうちの人間張りつけていいか? ホント胃が持たねえ」

「お姉さまなら全力バッチコイです」

「駄目じゃぞ、こやつは遠笠長屋での預り、七海は自由に動いてこそじゃ。今回いざなぎが釣れた、いや、縁を結べたのは七海の加護ゆえ」


 いや、お姉さまに四六時中張り付いて欲しいとか、そんなんじゃないです。心の潤いの話なんです。


 俺のまわり、現状、ロリと神使と妖怪とおっさんしかいないじゃないですか。もうちょい男子として健全なお話し相手が欲しいんです。エロい展開があればなおありがたいです。


「お前、それ発想が完全にキャバクラじゃねえか」


 あ、これキャバクラ欲なんだ。なるほど、ダディが嬉しそうに通うわけだ。いっぺんママンにバレてえらいことになってたけど、庭に一晩正座の刑はさすがにやりすぎだと思います。


「嬢ちゃん、書いた絵は持ってるかい?」

「あるぜよ!」


 ばばーんとばかりに差し出された数枚の絵。歌舞伎の一場面のような墨一色の線画だが、これそこそこイケてんじゃね? いや、こっちの絵師の画風はわからんけど、教科書で見た浮世絵っぽく見える。


「正直、力量がよくわからんな」

「わからんの」


 平賀さんとキツネが腕組みしながら吟味してる。あまり良くない感じだな。


「これ、ダメなんですか?」

「いや、ダメってわけじゃないんだが……」


 平賀さんが言うには、見た感じはいいんだが、同じような絵が何枚かあるだけで、客の注文に応えられる力量があるかは未知数らしい。あー自分の好きなアングルやシチュだけが得意な素人絵師っているもんな。俺もロボットばっかり作っててフィギュア作るの無理だもんな。

 そりゃ商業絵師なんか客の注文聞いてナンボだもんな。


「じゃあどっちにせよ修行しないと、ですか」

「とはいえ、絵師なあ。誰か弟子募集してたかな。いくつか版元に声かけてみるか」


 版元ってのが出版社みたいな立ち位置らしい。こっちの出版社も大手も零細もあるそうだ。


「さえちゃん、この人が師匠探してくれるってさ。俺と同じ寅吉で平賀さん。挨拶しとこう」

「え、また寅吉…。土佐は物部の住人、さえと申す…寅吉に師匠探させるなんて罰当たらんぜな?」

「大丈夫ですよね、大僧正」

「うむ、罰など当てぬ」


 リアルに罰当てる方の人が言うんだから大丈夫だろう。


「えーと、さえだったか? 俺は平賀源内だ。師匠については当たっとくよ。ところで今日の宿はあるか?」

「決めようとして歩いてたら、そこのおキツネ様に捕まって、そのままここに来たぜよ」


 ごめん平賀さん、全部俺らのせいだったわ。もう日が傾いてるから、今から宿を探すのはあんまり安全じゃないよね? この子ちっこいし。


「大僧正、この子の絵の師匠が見つかるまで俺の屋敷に泊めてもいいですか?」

「頼めるか、平賀。寺は男所帯での、うちの末寺に尼寺はあるにはあるのじゃが」

「うちにはお幸もいますし、世話はそっちに頼むことにします」

「すまぬが頼む」


 良かった、こっちはこれで落ち着いた。それにしても平賀さん、大僧正から言われたからとは言え、よくこんな見知らぬ子の世話をしてくれるな。


「大僧正とお前の頼みだからな、なんか神仏絡みなんだろう。誰でも世話するほどお人好しじゃねえよ。だからポンポン連れてくんなよ」

「すいません。でも俺が連れてきたわけじゃないっすよ」


 大僧正の依頼の件で、キツネが捕まえてきたんだから、俺はこの子に関してはノータッチである。

 これで今日はもうおしまいかな。まだ喧嘩してる陰陽師親子いるけど。


 明日はいい加減、黙って一人で根付作ろう。疲れたよ。大僧正、お土産の饅頭ください。

お急ぎでない方、毛色の変わった此の物語をまだ読んでも構わぬとお思いの方、向後に期待してやろうという方、よろしければ「ぽちっと」押してやってくださいませんか。


「ぶっくまーく」などもお気が向きましたらお願いいたします。


評価をいただければ、七海が喜んで五体投地でお宅に参ります。

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