弐之拾弐 モブ、ポロリをなかったコトにしたい
「インドラヤソワカ」
「ギャー!」
情報をポロリしたキツネに雷が落ちた。頑固親父がいたずら小僧に落とすあれではなく、物理的に。
この光景も見慣れて、もはや懐かしさすら覚えるようになってきた。あの時は混乱してたなあ。まだ二日前だけど。
「だ、大僧正、それは大丈夫なのであるか? しかし神使殿だけに落とすその精密さ、さすがである」
鳥さんがビビりながらも大僧正の雷を称賛してる。お姉さまもちっこい子も固まってる。俺と平賀のおっさんは慣れてるので落ち着いたものだ。
いや、落ち着いてる場合じゃねえ! 陛下ですよ、陛下! なんで日本の最上位の方が俺のことなんか知ってるの!
「なんですか陛下がご存知って? 俺、なんか不敬にあたったりしないですか? 不敬罪で首晒されたりしないですか?」
もう自分が何言ってるかわかんねえけど、京都って割とカジュアルに河原に首晒したりするイメージあるよね?
「殊勝であるの、七海よ。じゃが心配せずとも良い。聖上は神事を司るお役目上、寅吉の概要をご存知なだけじゃ」
あ、それだけ? 良かった、陛下に知られてるとか、国民栄誉賞で園遊会クラスの話かと思った。じゃあ心置きなくモブライフを送れるね! うち、国民の休日に国旗掲げるくらいには伝統派だから必要以上にビビっちゃったよ。
ここ、江戸だし、幕府派が多いからビビる必要なかったよね!
「じゃが聖上は天之御中主之神の加護を受けた寅吉を殊更お気になさっておられる。お主のことじゃよ、七海」
やめて! モブライフを邪魔しないで陛下! この難局はどうすれば……よし、決めた。
「キツネのポロリ…失言はなかったことにしましょう。俺はどなたの加護を受けてるか、まだ知らない。そうですね? よろしいですか? 皆さん」
「七海よ、妾を失言の咎から守ろうというのじゃな?!」
キツネうるせえ。お前の後始末だよ、むしろお前を始末してやりたいよ。嬉しそうに尻尾振んな。
「俺は聞いてない。なにも聞いてない」
そうです、その意気です平賀さん! 一緒にこの現実をなかったことにしましょう!
「ふむ、七海が良いなら、そうするかの」
「ぴっ! 私は京にいるので何も聞いておらぬ」
大僧正はそう言ってくれると思ってましたよ。鳥さんもありがとうございます。
「あわわ、天之御中主之神の加護の寅吉…」
お姉さま、俺もあなたも何も聞いてないんですよ。そこら辺よろしくお願いしますね。
「無事になかったことになったところで、みなかぬしってどんな神様なんです?」
俺が参拝してたのって熊野神社だったから祀られてるの、熊野の神様じゃないの? 那智の滝とか、和歌山の辺りですよね?
「ふむ、天照大神は知っとるの?」
「神道の最高神ですよね? 伊勢の」
「左様、その上に天照大御神と日の本を生み出した、いざなぎ、いざなみの二柱がおられる」
いざなぎ? まさかこの事態はいざなぎ流が?!
「その娘もいざなぎ流も関係ないぞえ」
ですよね、そりゃそうだ。大丈夫、わかってました、わかってましたとも、ええ。俺は冷静です。
「その二柱の上に別天津神と呼ばれる五柱の神がおられる」
「上には上がいるんですね」
「そう、その五柱の中でも造化の三神と呼ばれる三柱がおられる」
なるほど、頂点の中の頂点がいらっしゃると。
「その頂点筆頭、この一柱の前に神はおられぬ、それが天之御中主神じゃ」
「待って、その上ってもういないの?」
「まあ言うなれば日本神話の始まりの神じゃの」
え? え? なんで? そんなぶっちぎりの偉い神様が俺に加護を? 俺ちゃん、実は加護持ちでした! とか思ってた俺よ、お前は実に愚かだった。
日本の神様 オブ 神様みたいな方に加護もらってたらそりゃこの神仏談合みたいな世界に呼ばれるのも仕方ないわ。むしろ当然だわ。
「あの、お偉い神様というのは理解しましたけど、俺の世界でもそうなんですかね? 違いますよね?」
こっちじゃ偉いけど俺の世界ではそうではない可能性に賭けたい。賭けてどうなるもんでもないけど、安心が欲しい。俺の心は千々に乱れておりますよ。どなたか優しみをくださいましよ。
「神仏の貴さは全ての世界で同じじゃよ」
俺の根拠のない安心は崩れ去りましたとさ。
「おやおかえり七海よ。身なりがボロボロじゃが五体投地での礼拝はそんなものじゃよ」
「職務質問からの取調室を経験してきました」
「そのような言葉は知らぬの」
「最終的には釈放されましたけどね! 完全に頭おかしい扱いでしたよ!」
「西蔵では尊敬される行為じゃぞ」
「ここ日本だよ! 仏教至上主義の国と一緒にしないで! もう絶対しない!」
「またぽいんとが入ったら続けるが良い」
「ちょっとは俺を甘やかして!」
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