弐之拾 モブ、ちっこい子の絵師になりたいという夢を聞く
「七海よ、引き止めて悪かったの。饅頭をもたせるので長屋の皆で分けるとよい」
おじいちゃん、ありがとう! 見た目ショタだけど本当この人おじいちゃんだわ。江戸の祖父ってコピーで売り出せばいいんじゃないかな。
「うちはどうすれば?」
「そうだの、そもそもそちは何をしに江戸へ参った?」
「絵師になりにぜよ! 旅の絵師がうちの絵を見て、ものになるから江戸へ行ったほうがいいと言ってくれたぜよ!」
なんか詐欺の匂いがするなあ。お高い筆とか絵の具とか買わされてない? 版画のローンとか組まされてないよね?
「その絵師さん、名前なんていうの?」
「鐵造って言ってたぜよ! なんか、かかかつ派とかいうとこから破門されたとか言ってたぜよ、破門はうちもだなーってばあちゃんと話が盛り上がってたぜよ」
ダメだこれ。被害届を出しても受理されないやつだわ。いろいろふんわりし過ぎだわ。
「で、具体的にはこれからどうするの?」
「どうしたもんぜよ?」
「今までどうしてたの?」
「細工売ったり、頼まれて家具の修繕したりして稼いでたぜよ! 江戸に来たら絵で稼げるんじゃろ?」
逞しいけど、だめな子だった。自分の腕一つで旅するのはすごいけど、いきなり絵で食おうなんて無理にも程がある。せめてpixi○とかにアップしてから言えよ。
こっちじゃ、どっかに弟子入り、って形がいいんだろうが、そんな伝手ねえよ。ありそうなのは…。
「大僧正、これ、平賀のおっさん案件じゃありません?」
「じゃの。護法を飛ばすゆえ、しばし待て」
さえちゃんと河童に連絡待ちの断わりを入れて、また鳥を飛ばす。あれ便利そうだな、俺も教えてもらったら使えないかな? お主は呪力がないから無理じゃ、とか言われるんだろうな、ガッデム。
「これ、茶と菓子を持て」
若いお坊さんにお茶を汲ませようとする大僧正。
「すこしお待ちください。廊下がネトネトしてて…」
河童被害アゲイン。お前もう川に帰ったら? っていうか、人形なのになんでネトネトしてるの? そこまで再現する必要ある?
「さえちゃん、河童は川に戻したらどう?」
「河太郎よ、戻れるか?」
「近くの川から合羽橋に戻れます。主よ、何かありましたらお呼びくだされ」
「わかった、これからよろしく頼む」
「用がなくともお呼びくだされば水辺より駆けつけます。寅吉殿、きゅうりをよろしく」
俺にきゅうりをねだってから河童は出ていく。なんでここらの神使や妖怪は簡単に人にねだるのか、お前ら餌付けされすぎじゃない? きゅうりぐらい俺に言わずに飼い主に言えや。
「寅吉殿、河太郎のきゅうりは頼んだぜよ」
いつの間にか、俺は河童のきゅうり係になってた。もうきゅうり係でいいよ。
そう言えば取り乱してたお姉さまはどうしたんだろう。廊下へ目を向ける。
「こ、これは失態を。お上と幕府に失礼な事を申しました。何卒、この場のみでお納めくだされたく…」
あ、いつのまにかお姉さまのクールビューティが再起動されてた。
「取り乱しました。皆様にも詫びを」
凛とした、美しい姿で頭を下げておられる。
おかえりなさい、行方不明のクールビューティ。でも、さすがに今から取り繕うのは無理じゃないかな。
「保名殿、安心召されよ。次の八番の担当には陰陽寮からも人を出してもらう。順当に行けば保名殿が担当となろう。すでに幕府が予算をつけておる」
「え、それお手当出ますか?」
「そこまでは分からぬ」
「うちの上はケチなんですよ、江戸詰の手当なんて雀の涙ほどしかなくて。あ、これは批判じゃないです。ただの愚痴だから真剣に聞かないで」
帰ってきたクールビューティが早速ポンコツに変身しておられる。
「ぴぃ」
いつの間にか窓から白い鳥が覗いていた。大僧正とお姉さまを見て一声鳴く。
「ほう、式じゃの。京から届くか、流石じゃの」
「ひっ、お頭!」
青ざめるお姉様。式って式神ってやつ? 誰の?
少し書き溜めがなくなってきたので、隔日更新にさせていただきます。申し訳ありませぬ。
お急ぎでない方、毛色の変わった此の物語をまだ読んでも構わぬとお思いの方、向後に期待してやろうという方、よろしければ「ぽちっと」押してやってくださいませんか。
「ぶっくまーく」などもお気が向きましたらお願いいたします。
評価をいただければ、七海が喜んで五体投地でお宅に参ります。




