弐之玖 モブ、疑問を呈するが結局わからない
帰っちゃダメなら、もうせっかくだから質問タイムにさせてもらおう。
「えっと、垢抜けないちっさい子に質問が」
「うちの名ははさよぜよ。おんし、そんなふうに思ってたぜよ?」
さよちゃんね。急に新しい知り合い増えたから覚えるのめんどくさい。
「さよちゃんは木で人形か何か作って、それを操れるんだよね?」
「木地師の技と、傀儡の技と、いざなぎの式王子の技が合わさったのが、里のいざなぎ流ぜよ。ヒトガタを操るのはうちらの得意分野ぜよ!」
模型作ってそれを操作できるとか、全ての男の子の夢じゃん。ブンドドは人類原初のロマンじゃん? 頑張ったらビームとか空中機動とかできたりしない?
「その技術、めっちゃ教えて欲しいけど簡単じゃないよね?」
「ほう、うちらの技に興味が?」
「あるある、こっちに来てから一番興奮してるよ! まだ三日目だけど!」
「妾にも興奮するのじゃ!」
なぜかキツネがムキーってなってる。君は少し落ち着きたまえよ。
「三日目?」
「こやつはこう見えて寅吉での、こちらのことにはとんと不案内じゃ」
大僧正、フォローありがとうございます。
「え、寅吉…そんな大物がなぜ水虎を?」
ごめん、俺は小物でダメな方の寅吉なんだ。なんでか河童に縁ができたみたいだけど。
「保名殿、ところで寅吉七番は一緒に行動してどうじゃった?」
「はい、某には見えない遁甲の綻びを見極め、迷いなく結界に踏み込まれたように見えました」
お姉さまからの評価が高い。これはひょっとしてフラグ? 立った立った! フラグが立った!
「また悪い気が強く…」
大丈夫ですか? 介抱しますか? ここは紳士的な態度で好感度爆上げ狙うところですか?
「…大僧正、某は廊下に控えてよろしいか?」
「良くも悪くも強烈な神威じゃからの。楽になされよ」
ああ、お姉さまが離れていかれる。大僧正は俺を見て苦笑しておられる。なんでしょう?
「七海は常に気を落ち着けるように。それで水虎を見つけたときのことじゃが」
「河太郎だ」
「そうか、失礼した。その河太郎をどうやって見つけたのじゃ?」
河童から訂正が入る。こいつ名前あることにめっちゃこだわってたもんな。今度あげるきゅうりには名前をつけてからあげることにしよう。
「合羽橋へ向かってたら、緑色を見つけたんで近寄っただけです」
いや、甲羅背負った全身緑色なんてそうそういないから目立つでしょ? 新喜劇のテレビで全身緑色の人は見たことあるけど甲羅は背負ってなかったし。
「そうか」
河童含め、全員が呆れた顔してらっしゃる。
「普通に見えておられた? あの遁甲の中で?」
「あ、はい。河童は普通に見えてましたよ。見えませんでした?」
「……」
お姉さまに聞かれたので聞き返すが返事はなかった。大僧正が続ける。
「保名殿は違和感を感じたか?」
「違和感は感じました。ですが最初は人払いの術としか思えませなんだ」
「ふむ、遁甲の気配は感じなかったと」
「踏み込んで初めて遁甲だとわかった次第。修行不足で申し訳ありませぬ」
「いや、土御門の陰陽の介がわからぬのなら、そうそうわからぬだろうて。恐ろしい術を刻んだものよ」
「そもそも式に術を刻む、など聞いたことがありませぬ」
部屋の奥の大僧正と廊下のお姉さまが、俺を挟んでまた専門的な会話してる。
「すいません、とんこうってなんですか?」
せっかくの質問タイムだ。疑問はその都度聞いていくスタイルでいこう。
「陰陽の術で奇門遁甲というのがありまして…」
お姉さまが長々と廊下から説明してくださる。多分俺にもわかりやすく説明してくれてるんだろうけど、半分もわかんない。わかんないなりに、結界の中に八方向の門があって、間違った門へ入ると死ぬらしいのは理解した。なにそれ怖い。
「ただ門は設置されていなかったので、特殊な条件で入れる結界だったのでしょう」
「そうなんですね」
喜八さんすげえ! ますますなんで江戸で合羽屋やってたの?
「さえちゃんは今の話わかるの?」
「もちろん! 土御門を上回った喜八どんはいざなぎ傀儡方の誉れぜよ!」
さえちゃんは胸を張ってムフーとばかりに得意顔だ。郷土の偉人が大河ドラマになったとかそんな感じだろうか。
だがそんなことよりも大事なことがあるのだよ。
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「ぶっくまーく」などもお気が向きましたらお願いいたします。
評価をいただければ、七海が喜んで五体投地でお宅に参ります。




