弐之陸 モブ、水虎が収まったことを見届ける
空間を切り開いたキツネが旅姿の少女を引きずってた。やめなさい。その獲物は一旦そこに置きなさい。
褒めて褒めて! と言わんばかりにしっぽをブンブン振ってる。少し落ち着きなさい、ちぎれそうでハラハラする。
「この子がいざなぎの?」
お姉さまが疑わしそうにしてらっしゃる。まあ垢抜けない、そこら辺の女の子に見えるもんな。
「なんぜよなんぜよ?! 江戸じゃキツネが人を拐かすのか?! あれ、そう言うと普通のことに聞こえるぜな?」
元気だな、このちっこい子。お妙さんと変わらない年に見えるが落ち着きが全然ない。よろしいですか? ロリはもういらないのです、聞こえてますか? 神仏よ、あなた方の心に話しかけています。
「問おう、あなたが私の主か」
「河童、それはダメだ」
主と書いてマスターと読ませそうな雰囲気で、河童は垢抜けないちっこい子に問いかける。版権に問題が出そうな言動はやめろ、製作委員会が動くぞ。
「神使殿、よくこの遁甲を破れましたね」
「こんなものはズバーン! とやったらだいたいスパーン! と開くのじゃ!」
「本当、よくここがわかったな、キツネ。ここ、結界? みたいなのあったんだろ?」
「江戸市中の犬は妾の眷属じゃからの! 七海の匂いを追えば簡単じゃ!」
このキツネは警察犬か何かだろうか。それにしてもよく人間一人拉致ってきたな。この拉致られた子も河童も、合わせてなんとかうまく収まって欲しい。
「ん? お前、ひょっとして喜八どんの水虎ぜよ?」
「そうだ。主(仮)よ」
「何? 知り合い?」
垢抜けないちっこい子が言うには、その昔、彼女の出身地である物部の木地氏の集落に伝説の喜八どんとやらがいたらしい。
いざなぎ内部でなんやかんやあって、いざなぎの本流が傀儡の技を捨てた頃、木地師の技で作った水虎に式王子を憑ける術を完成させたのが喜八さんなんだと。
何言ってるかよくわかんないのは規定事項だからいいとして、お姉さまがふむふむと頷いている。なにか技術的に興味深いことなのだろうか。
で、その喜八さんは術を完成させたあと、江戸に出て合羽屋を始めて、家康公が絶賛町作り中の江戸に水虎を使って貢献したらしい。
喜八さん、なんで唐突に合羽屋始めたんだよ。そんなにカッパ好きだったのかよ。
「同じいざなぎでも、うちの流派には傀儡の誇りがまんだあるぜよ」
「じゃあこの河童は任せます。こいつの主人になってやって」
「え?」
ぽかんとして俺と河童と土御門さんを順に見るちっこい子。
「え、そんな伝説的な式王子を私が継いでいいの?」
お姉さまが頷く。
「重ねて問おう。あなたが私の主か」
ほら、河童もそれで良さそうですよ。腹を決めたのか、垢抜けないちっこい子の表情が引き締まり、背筋が伸び、ゴクリと喉が鳴る。
パチンと両頬を叩いて気合いを入れてる。
「水虎よ、いざなぎ流傀儡方 大夫末席、さよが主となろうぞ。喜八の水虎に河太郎と再び名付ける。以降、さよに従え」
「河太郎、心得ましてござる」
「いや、川に住むから河太郎て。もうちょいいい名前なかったの?」
「こやつの元々の名が河太郎というのぜよ」
じゃあ仕方ないね。河童を見ると嬉しそうにしてる。
「宇野殿、名は縛るものでもあるゆえ、主人を変えたからと妄りに名も変えるのはよろしくないのです」
「そうなんですね、ありがとうございます」
お姉さまが解説してくれる。親切! まあ、なに言ってるかよくわからないんですけれども。
「では、さよとやら。天海大僧正に会ってもらう」
「天海?って誰ぜよ?」
「江戸の守護者であらせられる」
「主を亡くした私が頑是なく暴れた時に封じられた方でもある」
暴れた自覚あったんだね。
「河童が暴れたって、俺も聞いたけど何したの?」
「我らが作った治水施設を壊して回った」
作ったもの壊したかー、インフラテロっちゃったかー、そりゃお前、封印もされるわ。
「あの時は大変だったのじゃぞ!随所で堤は破れるわ、橋は落ちるわ、水道は切られるわ、ありとあらゆる水に関係する所が破壊されてのう」
「おお、あの時の神使ではないか、あの時は迷惑をかけた。これこの通り」
河童が頭を下げたら皿の水がこぼれて苦しみ始めた。垢抜けないちっこい子が慌てて竹筒から水を足してやってる。
なんだこのミニコント。
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