弐之肆 モブ、存在として最弱だった
「あの、そろそろよろしいか?」
空気になってたお姉さまが再起動する。大僧正とキツネがすいませんね。俺には敵意持たないでくださいね。
「大僧正、神使殿、いざなぎの術者を確保した後はどうなさるおつもりで?」
んー、と宙を見据え、頬に手を当て考える大僧正とキツネ。
「「相手次第かの? (じゃな)」」
そんなんでいいんだ。
「元凶の術者も悪意があったわけではないからのう」
「江戸を害する意思がなければそれで良い。水虎を廃する手伝いでもさせるのじゃ」
え、廃するって滅ぼすって意味? それは流石に可哀想じゃん、地下で寿司でも握らせるとかじゃダメなの? 河童の握った寿司なんか絶対食いたくないけど。
「そこまでしないと駄目なもんなんですか?妖怪だけど一応生きてるんですよね?」
「自然に生じたモノではないからの」
発端からこっち、何から何までわからん。水虎ってなんなの。
大僧正が丁寧に教えてくだされようとする。
「良いか、七海よ。人には全て呪力があるのは知ってるな?」
「いえ、初耳です」
大僧正とキツネとクールビューティが固まった。そんな衝撃発言でしたか?俺からすれば全員に呪力とやらがある方が驚きですよ。
そう言えば忘れてたが、初日に平賀のおっさんがキセルに火をつけたとき、指先から火を出してたような気がする。
こっちの人、いや、俺以外、全員あんな事できるの?
「そうか、お主を大衆に混じらせるのはそういう理由もあったのじゃな」
「ちょっと待って。俺以外、火をつけたりできるんですか?」
「無論じゃの」
大僧正、冗談きついっすよ。キツネとクールビューティはどうお考えで?
「七海よ、お主苦労しておったのじゃな」
「宇野殿、今までどうやって生きていらしたのか」
なんで呪力? がある前提で話しておられるのか。いや、ちがうな、俺の世界以外はそもそも呪力前提の世界なのか。
「ひょっとして他の寅吉も呪力とやらが使えるんですか?」
「使えない者はおらぬの」
「大丈夫じゃ! 他の寅吉は呪や神呪やら呼び名が違うだけで皆持っておる! お主もそうであろ?」
キツネがフォローしてくれるけど、ないんだよなあ、そういうの。
「俺らの世界では使える方が異端ですね」
「なんと、仙境とはそこまで不思議な世界であられたか」
お姉さまが本気で驚いてらっしゃる。俺が並行世界最弱の世界から来たのはもうそれでいいですよ。寅吉と言うか、全世界の中でも最弱決定なんですね?
「呪力ってなんですか?」
「世の理を捻じ曲げる力じゃの」
「俺の世界はすべて理に則ったことしか実現しない世界だったんですよ」
「なんと理不尽な」
ポンポン転生してる理不尽の塊みたいな存在にそんなん言われましても。みんなの世界で科学さんは息してるの?
「まあ、その呪力じゃな、それを引き上げる技術体系があっての、まあ陰陽術やら法術やら道術やら方術やら呪術と言うのじゃが、いざなぎはまた特別での」
「あいつら表やら裏やら傀儡やら憑き物やらいろんな術系統があって対応が面倒なのですよ」
「基本は祭文と式王子とじゃが、応用が効く体系での。今回江戸に入ったのは恐らく傀儡の一派だとは思うのじゃが」
理不尽と理不尽が理不尽を話して理不尽が頷いてる。モブとしましては、もう俺いいんじゃないかな、と思うんですが。
もう饅頭もらって帰っていいですかね。
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