弐之参 モブ、まだまだ加護がわからない
小一時間かかって寛永寺に着いた。疲れるからやっぱり自転車欲しい。爆走したい。地味に起伏多いんだよ。
「来たかの」
「この者が水虎と接触したと?」
寺の奥の間に入ると、目元涼やかな、ほっそりキリリとしたお姉さまがいらした。うっひょー! 美人ー! この方がつちみかど? の、陰陽師なの? 俺の理想お姉さまタイプの一つ、ほっそりクールビューティーお姉さまにドンピシャじゃないですか! 貰ってください。
「この者が寅吉七番の宇野七海と言う。まだ召喚三日目じゃ」
「初めまして、宇野と言います貰ってください」
「宇野殿、某は土御門保名と申す。陰陽師である。よしなに」
もらって発言はスルーされた。さすがクール! そのお姿は髪を後ろで一つにまとめて、平安時代みたいな格好してらっしゃる。烏帽子かぶって昔の狩衣?着てる。こういうの日本史の副読本で見たことあるぞ。狂言師が主役やってた映画でも見たな。
クールビューティーが俺を見て目を丸くされておられる。どうされましたか?
「この者の神威は何事ですか? 大僧正」
「ほっほ、まだ明かせぬことでな。従六位上殿」
「官位など……この徳川の世に何の意味が?!」
「煽るな天海。土御門も天子の御代でないからと詮無いことで怒るでない」
大僧正、煽ったの? クールビューティ怒ったの? キツネ、今なんの話してるかわかったの? そして俺のいる意味はどこにあるの?
「大僧正、俺、話しなくていいんですか?」
「そうじゃったの、橋のくだりからもう一度話してくれんか」
河童と会って話したことをクールビューティに伝える。会話の内容を何回も繰り返し聞かれる。これいつまでやるの? 調書何回も取られて少しでも矛盾があったらそこから詰められるの?
「保名殿、七海から加護の神威を感じるならば率直に印象を聞くが早いぞ」
「……御意」
大僧正から助け船っぽいアドバイスが出る。ホント俺の加護ってなんなの。
「では宇野殿、その水虎に人に害する印象は感じられたか?」
「いえ、特に危ない感じはなかったですね」
「……左様か」
「妾の眷属に行方を当たらせておる。土御門はしばし待つが良い」
「御意」
おお、キツネが偉そうだ。そういえばこいつ偉いんだっけ?
「ところで大僧正、聞きたい事があるんですが」
「なんじゃ?」
「ここでご馳走になった饅頭、美味しかったんですけど、あれ、どこに売ってます?」
大僧正が爆笑しておられる。俺、変なこと言ったかな?
キツネとクールビューティに呆れた目を向けられる。俺は美味しいお茶菓子をお妙さんに届けたいだけなのに。
「あとで土産に持たせよう、もう少し付き合って欲しい」
「はあ、わかりました」
「大僧正、この者には過分な加護なのでは……」
なんか俺、敵意持たれてます? お姉さまに敵意も好意も持たれる覚えないんですけど。できれば好意だけプリーズ。
「土御門、過ぎた発言じゃぞ。加護は神が選ばれたものになされることを知らぬわけであるまいて」
キツネがピシャリと遮る。おお、俺への敵意は許さないって感じ?
「キツネ、頼りになるじゃない」
「ななな、なんじゃ突然! お主ごときに褒められたところで!」
尻尾ブンブン振ってらっしゃる。野生の癖に人に慣れすぎじゃない? 油揚げで餌付けされてるの?
「あの、俺の加護ってなんなんですか? お詣りしてたのは、そんなに大きい神社じゃないんですが」
「社の大きさなど関係ないぞ。神が気に入られたから加護をもらえたのじゃ」
いや、大僧正、疑問はそこじゃないんですよ。いい加減教えて欲しい。
「まあ加護が分からぬのは不安じゃろうが、まだ明かさぬよう上から言われておる。儂もそこのキツネも神仏から見れば下っ端じゃからの、言えぬこともある。時期を待て」
「わかりました。事情があるなら仕方ないっすね」
「ついでに言うと、そこのキツネは七海の加護の神威に当てられておる。無碍にしないでやってくれ」
「ててて天海! 何を言うか! 神使として加護を与えられた神に敬意を払うのは当然じゃろう!」
大僧正に諭される。うーん、でもキツネなんだよなあ。キツネキング先輩のおかげでアレルギー出るんだよな。
ものすごい熱量を持った人間に推しをめっちゃオススメされると醒めるじゃん? そんでその後うざくなるじゃん? その先は脳と肉体が拒否するようになるんですよ。うちのサークルは全員がそうなってる。
「善処します」
「そうしてやってくれ」
「七海はデレろ! 天海は上司みたいなこと言うな!」
てめえヒロイン気取りか、善処するっつってんだろ。気がついたらお姉さまが空気になってるじゃねえか。
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