肆之肆拾 モブ、勝手に体を使われて八番に指導する
「良いか、まずは丹田で呪力を練れ。中丹田ではない、臍下丹田だ。なに? 場所が分からぬ? 仙骨の前、会陰の上だ。そんなことも分からぬで剣を振っていたとは嘆かわしい。それでは棒振りと何も変わらぬぞ」
「えっと、臍下丹田、丹田……あ! ここか! ここで呪を練る…。え、練るってどうしたら?」
「それすら知らぬか。まずは広げ、そして縮めよ」
「広げる? こうかな? それで縮める……駄目だ、分からないです」
「呼吸とともに観想せよ。吸って広げ、吐いて縮めるのだ。まさかここまで言わぬと分からぬとは」
木剣を肩に担いだ摩利支天様 (外見:俺)が呆れながら衛人に細かく指導している。なんの指導してるか全くわからねえけどまあ大事なことなんだろう。
呪力とやらがない俺には聞いてても無駄な時間ですね。
することがないから改修プランでも詰めるか。
まずは何を置いても関節の置き換えだな。次帰る時に市販の関節を買ってこなきゃ。
関節のタイミングも変えて、胸部切って詰めて、首伸ばして、フェイスはシャープに作り替えて。
足も伸ばそう。腿を伸ばして膝は二重関節にして。
「そうだ、呪力が熱い塊になるだろう? それをそのまま維持せよ」
「はい、うわこれ難しい」
エッジ削るウスウス工作はマストだ。旧キットはなぜかプラが分厚いんだよな。その分、削り込んでプロポーション変えるのに気を使わなくていいんだけど。今どきのキットはプラ板で裏打ちしてからじゃないと貫通が怖くてそうそう削れない。
「まだまだ入り口ぞ。つぎはその呪力の塊を仙骨から背骨に沿って上げ、首の後ろから頭頂、上丹田から中丹田を通し、臍下丹田に戻せ」
ディテールアップはまだ考えなくていいだろう。まずはプロポーションの整理だ。情報量を増やすのは最後でいい。
「そこまでできて小周天だ。まずは一周させ、その状態が普通に維持できるようになれ。その次は周囲に呪力を通し、自分に戻せるようになれば良い。それが大周天だ」
「できる…気が……全く…しない…」
股関節は少し軸を延長して開き気味に整えようか。その方がケレン味が効いて迫力が出るはずだ。
「これは仙道の修行だが加護の習熟にも使える。精進せよ」
「はい…」
腕の関節をどうするかは考えどころだ。二重関節にした方がいいか、横ロールを増やした方がいいか、これは設定次第だな。設定本持ってこなきゃ。
「器よ、何を言っておるのか」
器呼ばわり止めろてめえ。摩利支天様が体支配してるからやることないんだよ。いいからこっち見ないで指導しとけ。
「気が散る、黙っておけ」
勝手に体使っといて大した言種じゃねえか。いつか泣かす。
「この摩利支天に泣かすとは笑わせる。器は器としていればよい」
チクショウ、摩利支天様の高笑いが聞こえてきそうだぜ、腹立つなあ。
「貴様ごときが腹を立てても仕方あるまい。いいから便利に使われておけ……なにこの紫雲。なんかヤバい気配がしてきましたが」
紫の雲が体を覆ってる。え、なにこれ。そんで摩利支天様がえらく焦ってやがる。
「摩利支天殿、天から降りられていいご身分だの。それ、こちらの器に来よ」
大僧正キタコレ! 大僧正えもん、聞いてよ、こいつひどいんだよお!
「七海よ、遅れてすまぬ。この器をいざなぎに作らせ、陰陽術にて整えるのに時間がかかった。許せよ」
「はい! 許すも許さないもないです。助けに来てくださってありがとうございます! あ、やった声出せる!」
これで傍若無人な摩利支天様から避難できるんですね! って早くも逃げやがったな、あいつ。
「ここにおるよ」
右手に握った仏像? みたいなフィギュア…いや人形に語りかける。
「摩利支天殿、お主には慈悲がない。それではいつまで経っても輪廻からは抜け出せまいぞ。わかるな?」
フィギュアに話しかけるちょっと痛い人は模型サークルにもいるが(言わずと知れたぱんつ先輩です)、これはちょっと様子が違うようだ。なんせ大僧正だし。あんな痛い美少女フィギュア狂いとは違うってもんですよ。多分。
「慈悲を知らずに悟っても、それは独覚の悟りでしかない。それすなわち菩薩の死じゃ。行くべきでない道じゃよ」
「はい、我のような者に仏道を説いてくださり、感に堪えませぬ。只今より赤心を持って天海菩薩に仕えさせていただきたく」
強制的に人形に移されたのが効いたのか、急に殊勝になりやがった。そんなに大僧正が怖いですか。
「そこな天狗よ、我が指導はわかるであろう。これより後の八番の育成はそちに任せる」
「は、御指導は理解しましてございます。大周天までは結果を出すよう指導してまいります」
クマラさんが上役に命令された軍人みたいな受け答えしてる。摩利支天様って偉いんだな。
ところで摩利支天様は俺が金丹の器になったことをどこで知ったんだろ?
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