肆之参拾玖 モブ、 八番に稽古をつけることになった
「あれ、七海さん、どうしたんですか?」
衛人が道場から顔を出して聞いてくる。お前の加護の主が来てんだよ、と言いたいが体の主導権は摩利支天様に奪われたままだ。まああれだ、頑張れ衛人。どんな修行をさせられても俺を恨むなよ。
「貴様が八番か」
俺の体で摩利支天様が言う。
「いや、ご存知お馴染みの衛人ですよね? あ、ひょっとしてそう思ってたの俺だけですか? これでも親しくしてきたつもりなのに寂しいじゃないですか。まあ半分は長屋のロリハーレムちゃん達に仲良くして欲しかったからですけど」
知りたくなかったその情報。なに? うちの長屋にちょくちょく来てるな、とは思ってたらそんな下心があったのかよ。
ブレねえな、このガチロリは。今度猫神使に鼠認定してもらって長屋に入れないようにしてもらおう、そうしよう。
「八番よ、貴様は我の加護を受けておきながら、まともに使えておらぬではないか。今より修練を施す故、我の加護を使いこなしてみせよ」
「え? え? 七海さん? だよね?」
残念。お前に語りかけてるのはお馴染みの七海さんではありません。あとで大僧正に怒られる予定の摩利支天様です。
「その件につきましては、どうか、菩薩にとりなしては貰えまいか」
うるせえ、大僧正にボコられとけ。
「うほん、気を取り直して。さあ八番よ、今は七番の体を借りているが我は摩利支天である」
「え、いや、七海さん? 頭どうかしました?」
まあそうなるよね普通。知り合いが突然に自分は神仏である、とか言い出したら頭疑うよね。さよちゃんや日照さんがすぐに気付いたのがおかしいんだよ。なんでわかったんだろ。
「まあ良い。八番よ、お主には我が加護の力を習熟してもらう。覚悟せよ」
「え? え? 七海さん?」
無慈悲に道場にあった木剣を打ち込む摩利支天様。そしてにこやかに見守る日照さん。同じ疑問を繰り返すだけの衛人。クマラさんは稽古中の闖入者が摩利支天だとわかるみたいで呆然としてらっしゃる。賭け事狂いのクールビューティーはどこ行ってんだろうか。
俺にはなんの関係もないけど、俺のせいになるんだろうなあ。必死に剣を受ける衛人を見ながら、ごめんなさい、と内心で謝る。ドガガガ、と普通じゃない音が道場に響く。
「どうした八番。我の加護を受けてその程度か」
「いやいや七海さん? って、さすがに違うなこれ! 一体何が起こったんですか!」
どうやら衛人も中身が違うことに、やっと気がついたらしい。
俺の体ってこんなに動けるんだなーという場違いなことを考える。上中下、と的確に打ち分けていく体。虚実も使って、衛人の守りも受けるのに精一杯という感じ。すげーな俺の体、を操る摩利支天様。衛人ごめんな、迷惑かけてます。
「ふむ、なかなかできるようだ。さて八番、そろそろ陽炎の位を見せてみよ」
「なんで七海さん……じゃないですね、摩利支天様でしたっけ、何故それを?」
「我が与えた加護ぞ。気にせず打ち込め」
ニヤリと笑ってクイクイ、と衛人に手招きする俺、こと摩利支天様。なんで挑発の仕種は現代っぽいの。
「寅吉にはこういうのがいいのだろう? 貴様の記憶にあった『ぶるうすりい』とかいうのがこうしていた」
人様の記憶覗いてんじゃねえよ、摩利支天。これは大僧正に報告案件ですね。
「落ち着け、七番。できれば報告はやめてほしい」
うるせえ、好き勝手やるなら、やられる覚悟だけはしとけ。
一人喧嘩を始めた俺に、
「あの、七海さんの中の方? 摩利支天様でしたっけ」
「なんだ」
「本気で七海さんの体に陽炎の位を使えと?」
「構わぬ。貴様程度の技ではどうにもならぬ」
衛人の顔から表情が落ちる。怖いよお前、なんで本気っぽくなってんだよ。
「では」
短く言うとともに青眼に構えた切先がブレたと思ったら五つほどに分かれる。うわ、怖ええ。
「ふむ、その程度か」
いやいやいや、剣術はよく知らないけど、こんなん相手にしたら負け確定だろうよ。どこに打ち込まれるかわからん剣なんか、まともに相手できねえよ。
「八番よ、せめてここまではできるようになってもらおう」
俺の持つ剣が中段と上下左右に分かれて異なる軌道を描く。五ヶ所同時に衛人が打たれた? 剣の速さとかじゃなく、全く同時に打ち込まれて寸止めされてた。なんだこれ。
「陽炎の位は最低でもこれくらいのことはできる。さらにこうもできる」
視点がおかしくなった。正面から見てるはずなのに背後からも、右からも左からも、上からも下からも見える。
「分身した?!」
衛人の驚く声が聞こえる。え? 俺、分身してるの? この体のポテンシャルはどこまであるの?
「この器はいい。人界では使えぬ技も自在に使えそうだ」
そう言いながら一斉に打ち込まれる木剣。
あらゆる所から打ち込まれた衛人がどうやら気絶したらしい。
同時にいくつかの急所を打たれたらパニクって気絶したり、混乱する話は聞いたことがあるけども。
まさか現実に俺が起こすとは思わなかった。摩利支天が勝手にやったんだけど。
俺のせいなのは1ミリもないんだけど、ごめんなさい。文句は摩利支天に言ってくれ。
もういい加減に長屋に戻らせて。
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「ぶっくまーく」などもお気が向きましたらお願いいたします。
評価をいただければ、七海が喜んで通報をものともせずに五体投地でお礼に参ります。




