肆之参拾漆 モブ、摩利支天にブチギレる
俺の体は長屋へ河童の案内で進んで行く。自分ちへ帰るのにものすごいアウェー感がある。体が自分の意思に反して動いてるの、すごいストレスがある。
すいません、摩利支天様、ちょっとでいいんで俺に体返してもらえませんか?
「器ごときがこの摩利支天に願いとな」
無理か。この人、現世の存在を舐めくさってるもんな。大僧正に告げ口すんぞコラ、告げ口くらいしかできないけど。
「天海菩薩の縁の者であったか。ならば聞こう。なにとぞよろしくお伝えください」
さっきまで偉そうだったのに、なんで急に下手に出てくるの。大僧正はそっちでどんな扱いなの、寅吉はだいたい大僧正と縁あるよ。
「だが八番に修行させるまで体を使わせて欲しい。あやつは我の加護を少ししか使えておらぬ」
知らんがな。摩利支天様も仏様なら頑張ってご自分で顕現してくださいよ。
「我は仏にあらじ。仏法の守護の天部よ。仏の尊さに守護を買って出たが、できたら天海菩薩には我の所業を黙っててください」
大僧正って菩薩様なの? ん? 知らぬのか? という摩利支天様の思いが伝わってくる。知りませんよ。菩薩と仏様の違いってなんなの。
「仏になるための修行者を菩薩と呼ぶ。出家であろうと在家であろうとそれは変わらぬ」
仏教の修行者なんていくらでもいるでしょうに、それも全部菩薩様なの? 菩薩様の基準ゆるくない?
「仏になる徳がありながら解脱せず、現世に留まる方は狭義の菩薩だな。天海菩薩はこちらだ」
そう言えば平賀さんからそういう存在が俺らの世界のチベットにいるって聞いたな。活仏とか言ったっけ。仏になる資格持ちだけどあえてこの世で転生してるんだっけか。なるほど、そういうのが菩薩様なんですね。
「分かってもらえたか、ならば天海菩薩には黙っててくれるか」
報告するに決まってんだろ。勝手に江戸に呼ばれて体作り替えられて、挙げ句に取り憑いた尊大野郎から器扱いされて見下されてんだぞ。いい加減ストレスマッハだよ。
「そこは悪かった! 我が悪かったから黙ってて欲しい! 知られたらどんな仏罰が下るか……」
そんなグダグダしたやりとりをしながら長屋に着いた。もちろん河童も来ています。帰れ。
「摩利支天様、こちらが我が主人、土佐は物部村のいざなぎ流、傀儡方太夫のさよ殿である」
「七海! 久しぶりぜよ! 元気だった…か…? おんし誰ぜよ」
さよちゃんに疑いの目を向けられました。こういうの悲しい。摩利支天様、いい加減に体返せよ。てめえ告げ口くらいで済むと思うなよ。大僧正の雷くらいは喰らっとけ。
「ま、待て」
待たない。何度も言わせるな、体返せ。
「わ、わかった。今返す」
最初から素直にそうしろよ。次から江戸に来るのやめるぞボケ。
「お? 気配が七海に戻ったか? 今のは何だったぜよ?」
「さよちゃん久しぶり。なんか神様か仏様か知らんけど、そういうのが降りててね。河童も案内させられてたの。衛人のとこには俺が案内するから、この体に何言われても気にしないでね」
「七海はいつも面倒なことになっとるぜな」
うん、俺もそう思う。だいたい俺のせいじゃないんだけど。
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