肆之参拾陸 モブ、また何かが降りてきた
俺にしては珍しく、自分から御隠居さんちへと納品に向かってる。旧キットに集中し過ぎて体が凝ったせいか、散歩欲が出てしまった。ギラギラのお日様眩しい。
やっぱり自転車欲しいな、誰とも話さずに何十キロも走って運動できるんだから、心身ともに引きこもりになりつつある俺にピッタリだと思う。持ってきたら怒られるからしないけど。
「きゅうりの寅吉よ、息災か」
誰がきゅうりの寅吉だよ。河童が天下の往来で話しかけてくるんじゃねーよ。お前は橋の上でネトネトしとけ。
「河童、なんで出歩いてんの? 頭の皿乾かない? むしろそこらで乾いといてくれない?」
「江戸はそこかしこに水道の井戸があるので心配ない。今日はきゅうりの寅吉はきゅうりを持っていないのか」
いや、だからきゅうりの寅吉じゃないよ、今はきゅうりの時期じゃないし。
気がつくと周りには人がいなくなってる。この野郎、また変な術使ってやがるな。
「それでわざわざ出歩いてどこ行くんだよ」
「主人の住む長屋だ」
うちかよ。
「なに? さよちゃんに呼ばれてんの?」
「主人に命ぜられて大僧正に協力して怪しげな連中を監視している。近くには彼法を見つけたので報告した」
衛人がカチコミかけたのはこいつの情報かよ。なんで皆こんな全身緑色が見えないのかね?
「そうか、まあ気をつけてな」
「ところできゅうりの寅吉よ、その体はどうした」
またその話かよ。もういい加減飽きてきたから手短に済ませようと口を開く。
……開かねえ。体の自由が効かなくなってる。え、また? また誰か降りてきたの?
「ふむ、これが丹生都比売の用意なされた器か。…なんだこの河童は」
「河童ではない。名のある水虎の河太郎である。なにやら尋常の気配ではないが、御身はどなたか。なぜきゅうりの寅吉に降りて来られたか」
相変わらず名前のあることにこだわる河童である。こいつ基本、初対面にはお決まりの対応なのかね? そして降りてきたのは誰かというのも今の俺ならわかる。こういうの、分かるもんなんですね。
「寅吉八番に加護を与えた摩利支天である。そこな水虎よ、寅吉八番を知らぬか」
「御身が降りられたのは寅吉七番である。八番と知己であるとは聞いているが」
河童、なに普通に会話してんだよ。なぜかこの方のプロフィールが理解できたけど、これはおれが器になってるからだろうか。
信長さんは天人だったけど、摩利支天さんは戦いの神みたいなお人じゃん。間違っても俺みたいな人間と縁のある方じゃないじゃん。そんで衛人に軽くイラついてらっしゃるじゃん。
憑依されると感情も伝わるんだね、すごいね!
「我は寅吉八番に力を貸しているが、あやつは我の力の一分ほども使えておらぬ。いい加減、見かねた故、直接指導に降りてきた。水虎よ、寅吉八番の元へ案内せよ」
衛人にイラついたから俺に降りてきやがったらしいよ、この摩利支天様は。
前も思ったけど、この世界、俺の意志って無視され過ぎじゃない?
「器の意思など関係ない。地上に降りるのに便利になったことよ」
人をフロア直通エレベーター扱いすんのやめてもらえません?
「八番の所在は知らぬが、主人なら知っておろうぞ」
「では水虎よ、お主の主人に聞こうぞ」
「心得た」
なんで河童は摩利支天と対等に話してるの? そんで俺は今出てきた長屋へ帰らなくちゃいけないの?
くそう、たまに自発的に外に出たらこれだよ。俺は引きこもってるのがお似合いなんですか。お似合いなんですね。もうお外出ない。
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