肆之参拾伍 モブ、残念ながら呪力には目覚めない
今日も今日とて根付を作……らずに旧キット改修に手をつけ始めてしまった。だって色々あったんだからいいじゃん、少しくらいは休んでも。
「七海よ、それは休んでおるのか?」
「当然ですよ、俺と関係ないとこで物事が進むのは仕方ないとは言っても、限度ってものがあるでしょう? 限度ってものが。なので少し納期が遅れても心の健康を保つために休みが必要なんですよ」
「そう…なのか? 猫には七海がいつもと同じことをしているようにしか見えぬが」
素人目にはそう見えるかも知れませんね。いつもの机に向かって、いつもの座布団に座って、いつものような小さな立体物をいじってるんだから。だがそれは浅はかというものですよ、猫神使。
「いいですか? この仮組みしたプラモ…模型をじっと見ているとですね、この模型が語りかけてくるのです」
「お、おう?」
「今はダサい姿ですが、これが本来持つべきだったスタイル、可動域、ディテール、そういうものが見えてくるのですよ」
「お、おう。おう?」
当時の原型師や金型技術者の限界や無念、そんなものまで見えてくるようだ。コストと品質の兼ね合いもあったろう、涙を呑んでオミットした機構もあろう。そういうものを今の技術で当時以上の姿に甦らせるのですよ。おわかりですか?
「それでも普段の作業となにも変わらぬように猫には見える」
「実際そうでしょうね」
わかってます。この気持ちはモデラー以外にわかってもらうのは無理だということはわかってます。だって趣味だもん。
「そうだ猫神使」
「なんだ」
「俺の体って金丹? に変わったらしいんですけど違いってわかります?」
「えらく神威が増しておると思ったらそんなことに」
「あ、わかるんですね。だったら俺にも呪力が生えてたりしてません?」
さあどうだ、俺の体がそんな貴重なものになってるなら呪力の一つや二つ、発生してないだろうか。猫神使がこちらを目を細めて見てらっしゃる。まさか寝てないですよね?
「なにもない」
「ないですか」
ガッカリだよチクショウ。あ、猫神使が畜生だってわけじゃないですよ?
「七海は呪力が生じたとしたら、なにがしたいのか」
「そりゃ、さよちゃんに改めて弟子入りしてプラモを操ってブンドドします。呪力がないって理由で破門されましたから」
作ったプラモを自由に操れるなら修行などなんの苦にもならない。ロマンですよ、ロマン。男には自分の世界があるんですよ。例えるなら空を駆ける一筋の流れ星ですよ。
自分の意思の通りにリモートブンドドできるならサフも塗装もせず、成形色オンリーでパチ組みシール貼りも辞さない覚悟ですよ。モデラーとしてのこの覚悟は汲んで欲しい。あ、スミ入れだけはさせてください。
「ろまんというのはわからぬが、七海の世界では呪力がないのだな?」
「ないですね」
「ならば元の世界で七海は異端児になるがそれでもいいのか?」
「それも已むなしです。ブンドドは男の、いや人類の原初衝動です」
「だが七海に呪力は毛ほどにも感じぬ」
人生はままならないものである。呪力生やす薬とか心当たりないですか?
お急ぎでない方、毛色の変わった此の物語をまだ読んでも構わぬとお思いの方、向後に期待してやろうという方、よろしければ更に下にスクロールして広告下の白星を「ぽちっと」押してやってくださいませんか。
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評価をいただければ、七海が喜んで通報をものともせずに五体投地でお礼に参ります。




