肆之参拾参 モブ、金丹の話を寅吉三番にも聞く
「いや、それで上総掘りの普及する、言うたら大僧正が『錫杖でトン、と突けば水でも湯でも鉱脈でもいくらでも出るだろうに』とか言わはるねんな。そんな『錫トン』みたいなことできるか! ちゅうねん。努力とか人力とか全否定かい! て、なあ、そう思わへん?」
「はあ」
衛人のカチコミ自慢が終わってやっと帰ったと思ったら、その後やって来た三番さんの駄弁りが始まってた。なんで寅吉はみんな俺の家知ってるの。
「仏様になる前から奇跡ばっかり起こしてたお人やから下々の苦労がもひとつ分からへんのやね。天才はやっぱりどっかおかしいねんて。ものすごい努力家やった、て聞くけど努力の方向と結果がおかしくない?」
「はあ、そっすか。で、なんでうちに?」
そしてなんで寅吉はみんな俺ん家で愚痴るの。作業してるの見えないの? そういう呪いでもかかってるの?
今は水に漬けといた鹿の骨の加工してるとこです。さすがに固い。固いけど見知らぬ素材加工するの楽しい。これで釣り針作ってたとかマジかよ。
この鹿の骨と俺が真剣勝負してるの分からない? あなたはオフでも俺はまさに今オンタイムなんですよ。炎の根付職人ですよ。普通のロボットの原型やプラモが作れなくなってたらどうしようと言うのが最近の悩みです。旧キット改修もプランの時点で止まってるし、早く手をつけたい。
「いやこの場所は平賀さんから聞いてんけどな、いっちょ寅吉同士の親交深めたろかな、思て」
この糸目の関西人、人が本気で新規材料と闘ってるのにいい身分だな。
「七海よ、それなら猫がこやつを追い出すか? 猫がこやつを鼠と見做せば長屋に入れぬようになる」
猫神使が提案してくださる。ありがたいですけど、物騒なので今はいいです。ありがとうございます。いつかお願いするかも知れませんが。お礼代りに頭と喉を撫でる。
「おほー、七海よ、日に日に撫でるのか上手くなるの」
猫神使のおっさんみたいな声が出ました。俺の代わりに怒ってくれてたみたいですけど、ご機嫌直りましたかね。あとで煮干しあげますね。鰯の天ぷらもつけましょう。
「三番……多聞さん、せっかくなんで聞きたいんですけど、俺の体が金丹? とやらになったのはご存知ですよね?」
「そらまあ、現場におったからな」
「それってなんか問題あるんですかね?」
お姉さま方に説明受けたけど、結局よくわからなかった。なんとなく、これが知られたら俺のモブライフに支障きたしそうだな、という予感はする。この人に聞いて分かるものかは知らないけど。
「仙薬はわかる? ああ、わからん顔してるな。一言で言うと修行も苦労もせんと飲むだけで仙人になれる薬やな。なんの苦労もなしに不老不死の超能力者になれたらええと思わん? そういう夢の薬やな。錬金術で言うところの『賢者の石』や」
賢者の石って錬金術で鉛を金に変えるものだっけ? それと金丹は同じなの?
「大筋は一緒やで。物質を作り替えるか、体を作り替えるか、違いはそうないよ。要するに存在の変容に関わることやから」
「そんなもんすか」
聞いといてなんだけど、そんな大騒ぎするほどのことじゃないような気がする。別に普通に動くしな、この体。排泄欲求ないのは変わらんし、怪我しても血も出ない。今までと特になんも変わらない。
「いやいや七海君。君の体を削って飲んだら仙人になれるんやで? もうちょっと危機感持とう?」
「なにそれこわい」
「シャレ抜きで体狙われてもおかしくないというか、普通に拉致される可能性あるよ?」
くそう、モブは拉致られて体を削られる運命なのか。やめて! 縛らないで! もっと優しくして!
俺が主人公ならそんなことは起こらないだろう。これが寅吉格差か。どこに訴え出ればいいのか。モブの安心はどこに売っているのか。
「七海君は知らんやろけど、その件は幕府で最高機密扱いになってたで」
「え、マジで?」
「そらそうやろ、公方様や帝が欲しがってもおかしくないんやで、君の体」
みんな俺の体が目当てなの?
「もっと言うと唐の皇帝にでも知れたら戦争になるよ」
皇帝も俺の体が目当てなの?!
「まあ簡単にはそういうことにはならんやろけど、徐福の前例があるしな。不老不死の薬が手に入るならなんでもしよるで、あいつら」
「よく分かりました、ありがとうございます。そんじゃすいませんが集中したいんでそろそろいいですか?」
「そうだ、帰れ。ここは七海と猫の巣である」
猫神使が威嚇のイカ耳で怒ってる。まあまあ、落ち着いてくださいな。俺も同じ気持ちですよ。巣じゃないですけど。
「話振っといてそんな終わらせ方あるかいな。でも神使に嫌われたみたいやし帰るわ。僕の屋敷の場所はあとで使用人に伝えさせるから気が向いたらいつでもおいで。神使様もすいませんでした。新しい寅吉と話がしたかったんはホンマですよってに怒らんといてくださいませな」
いそいそと多聞さんが帰っていく。さて、やっと本気で作業できる。猫神使も怒ってくださってありがとうございます。
「猫は七海の安寧を守るよう言いつかっておる。七海はただ、平けく過ごせば良い」
よくわかりませんがありがとうございます。どなたが猫神使にそんなこと言ったんだろ。できればキツネにも言い聞かせてやってください。
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「ぶっくまーく」などもお気が向きましたらお願いいたします。
評価をいただければ、七海が喜んで通報をものともせずに五体投地でお礼に参ります。




