8.衝撃
僕たちは、司教様の執務室の前までやって来た。
「君たちは、ここにいなさい。ここから先は、ジェイク君しか行けないから……じゃあ、ジェイク君、先ほどの手順で……」
「は、はい」
まずはゆっくりノックを三回。
「はい」
部屋の中から返事がする。
次に、大きな声で……
ガラガラガッシャーン!
「「「?」」」
(いいから、そのまま続けなさい)
神官が小声で促す。
僕は頷き、
「マロネ村のジェイクと申します! 司教様にお目通り願いたく、罷り越しました!」
「……しばし待て」
「はい!」
落ち着いているが、女性の声だ。
バタン、バタバタ……ドタドタ……
しばらくして、
「入りなさい」
「はい、失礼いたします」
と、ドアを開けると、本の山の間に、人が一人通れるかどうか、という感じの通路ができていた。
僕は、本の山が崩れないように、そっとドアを閉める。
「し・つ・れ・い・し・まーす」
狭い通路を、身体を横にして通っていく。
突きあたりに、大きな机があり、机の上にも山積みの本や書類。ただ、机の周辺だけ、通路のようになっており、本の山はなかった。
「司教様?」
「き、キミ、ちょっと助けてくれないか?」
山積みの書類の向こう側から声が聞こえた。
「はい、そちらへ伺っても?」
「ああ、構わない。緊急事態だ」
僕は慌てて、机の向こう側へ向かう。
「!」
目の前にあるのは、オシリデスカ?
上半身が机と雪崩れた本に挟まれ、お尻を突き出すような体勢になっていた。
「キミ、見ていないで、私の上にある本を……」
「は、はい」
すぐさま本を取り除くが、置く場所がないので、とりあえず椅子の上に重ねる。
結構、本って重たいよな……
そんなことを考えながら本を移動させていると、
目の前に何か現れた!
[重力操作(小)]
「ジュウリョクソウサ?」
というと、司教様の上に重なっていた本が浮かび上がった。
「ふう、助かったよ」
司教様は背を向けたまま、司祭服の埃を払う。
僕が、机の下に落ちていた本を拾い上げ、机の上に戻そうとした、その時、
「な、なんだこれは! これは、キミがやったのか?」
「むっ?!」
勢いよく振り返った司教様の豊かな谷間に挟まれてしまった。
ドサッ
同時に浮き上がっていた本が、机の上に落ちる音がした。
「ぷはっ!」
ち、窒息するかと思った。
「し、失礼いたしました」
「いや、仕方がない。事故だ。それよりも、今、本が浮いていたのは、キミの仕業か?」
「は、はい。たぶん」
「では、すぐに鑑定させてもらおう」
司教様は何やら呟き、両手を僕の頭の上にかざした。
「ん?」
「んんん??」
ふう、とため息をつき、司教様が机にもたれかかる。
そして、僕は衝撃的な言葉を聞いた。
「キミはただの《ファーマー》ではないな?!」
「え? 僕は《ファーマー》なんですか?」
「は?」
司教様は何を言っているのかわからないという顔をする。
「僕は冒険者になりたかったんです」
「いや、残念ながら、キミは正真正銘の《ファーマー》だ。だが、《ファーマー》なら、酪農畜産や農林水産に直接関わらないスキルは持てないはずだ。これまでの研究では……なのに、キミは、本を浮かび上がらせた!」
「でも、沢山の収穫物や、大きな肉や魚などを動かすためには、そのようなスキルも必要なんじゃないですか?」
「ああ、そういうスキルは確かにある。だが、これは、肉かな?」
司教様は意地悪そうな笑みを浮かべて、本を手にした。
「さらに、私の鑑定が通用しない。今日、500年ぶりに誕生した《勇者》、カイル君でさえ、ある程度のスキルは鑑定できた。もちろん、その情報は、私が墓に入るまで持っていくが……」
「そ、そんな、《ファーマー》なんて……」
僕は、冒険者になって、自分の手で魔物たちをやっつけるつもりだったのに……ごめんなさい、父さん、母さん。
「キミはそんなに《ファーマー》が嫌なのかね?」
「いえ、父も母も《ファーマー》でした。だから、両親には感謝していますし、《ファーマー》であったことを誇りに思っています。」
「だったら、なぜ?」
司教様は、椅子の上にあった本を机の上に無造作に重ね、椅子に座る。
目のやり場に困っていたので、座ってくれてありがたい。
「僕は両親を魔物に殺されました」
「……そうか」
司祭様はそう言うと、わざとらしく、その透き通った肌が露わになるように足を組み直して、
「キミは勘違いをしているようだ」
「え?」
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