7.ドチラサマデスカ?
僕は不思議な夢を見ていた。
目も開けられないほど、白く輝いている空間で、おじさんとおばさんが口喧嘩をしている。
おじさんは、足元まで届きそうな、白髪混じりの長い髭を伸ばしており、手には杖を持っている。
おばさんは、白い布を左肩から垂らし、腰紐で大事な部分が見えないようにしている。整った顔立ちで、かなり筋肉質だ。
「おぬしはいったい誰じゃ!」
「じじいこそ誰よ? なんでここに二人もいるのよ!」
「ぬぬぬっ! 最近、神霊界の若者は礼儀がなっとらん! おぬしから名乗れ!」
「あんたみたいなのを老害っていうんだよ! 名前を尋ねたヤツが名乗るのが礼儀だろうが!」
すると、遠くから、より一層明るい光が差し込んできた。
「お二方ともお止めなさい」
年配の男性と女性は、胸ぐらを掴み合っていたのを手放し、
「「アマテラス様っ!」」
誰かいるのだろうか。
僕には見えないが、二人は光の差す方向に向かって跪き、頭を下げた。
「・・・・・・」
僕は、光の主に呼ばれた気がした。
「はい?」
「あなたが選ばれし者ですね」
「僕?」
「頭が高い! 控えよ!」
筋肉質のおばさんが言う。
僕は黙って地面に正座した。
「まあ、良いではありませんか。このようなことは初めてですから!」
光から嬉しそうな声が聞こえる。
「わたくしは、アマテラスと申します。この宇宙全体の天候や自然現象を司っております。」
「じ、ジェイクと申します。よ、よろしくお願いいたします」
僕は、混乱していた。
さっきまで洗礼を受けるために、大聖堂にいたのに、意味不明なことを言う、目には見えないナニカと話をしている。
老人のような男がこちらを向いた。
「わしはエンテイシンノウじゃ」
「よ、よろしくお願いいたします!」
誰デスカ? 初メテ聞クンデスケド?
筋肉質のおばさんがこちらを向き、
「俺はガイアだ。よろしくな!」
「あ、はい。よろしくお願いいたします!」
ソンナ名前、知リマセン……
オバサンナノニ、「俺」デスカ?
再び、空間全体が強い光に覆われる。
光の向こうから、頭に金色の髪飾りをつけ、真っ白な布で作られた不思議な衣装をつけた女性、いや、可愛らしい女の子が現れた。
「ジェイク、あなたは、この世界で初めての『選ばれし者』です」
「僕がですか?」
「はい。そこにいるシンノウは動植物や昆虫など、あらゆる生き物を司っている神です。こちらの女性、ガイアは地面、例えば土や岩、火山など大地を司っている神です。」
「はぁ……」
ヨクワカリマセン!
「普通はのぅ、人間どもが言う『洗礼』というのは、わしら神霊界の者の持つ力の、ほんのごく一部、爪の先くらいの力しか与えんのじゃ」
と老人が言うが、顔が近い。
「は、はい……」
「しかも、ふ・つ・うは、人間一人につき、一体の神霊の力しか貸さねーんだ」
筋肉質なおばさんも詰め寄ってくる。
「そ、そうなんですね……」
「わたくしも、長い間生きてきて、数回ほど、一人の人間に、ほんのちょこっとだけ『力』を授けたことはありましたが……」
幼児が困った顔をしている。
ヤッパリ、僕ハ、オカシクナッタノカナ?
「今、ここは、おぬしの中じゃ。おぬしの中に三柱もの神霊がおる、というのは、とんでもないことなんじゃ」
「つまりだ、お前には俺たちの、100パーセントの力がすべて与えられたってこと!」
「合わせて300パーセントです!」
なぜか嬉しそうなアマテラス。
シンノウが近づき、真剣な顔で、
「おぬしがどのような人間か、見極めさせてもらうぞ?」
ガイアも真顔になり、
「絶対に努力を怠るなよ?」
真面目な顔のアマテラス……かわらしい……も近づき、
「わたくしたちはいつでもあなたを見ています。これまでの神霊界の摂理から逸脱したあなたがどう行動するのか、楽しみにしています。」
三柱の神様(?)たちは、再び光の中へ消えていった。
「あ、あの、僕は、どうしたら……」
***
目が覚める。
ここは、どこだろう?
「ジェイクーーッ!」
ユリアが抱きついてくる。
「うわーっ! ユリア、どうしたの?」
「洗礼の後、お前が倒れて、医務室へ運ばれたんだよ」
「心配させないでよ! 急に倒れたりするから、びっくりするじゃない!」
バイロンとカリナ、その横にいる神官もホッとした様子だ。
「なんか、ごめん」
「良かった。ジェイクが無事で」
上目遣いのユリアが妙に色っぽくて、つい見惚れてしまう。
「オホン、ジェイク君、もし、君の体調が大丈夫なら、司教様の所へお連れするよう、仰せつかっているのだが」
一緒にいた神官が言う。
「あたしもジェイクと一緒に行きます!」
「あ、いや、ジェイク君一人で……」
「ダメです! さっき倒れたジェイクを一人で行かせられません」
おいおい、ユリア、司教様の命令に背くつもりか?
「仕方ない、司教様のお部屋の前までなら、一緒に来なさい」
「「「はーい」」」
ん? バイロンたちも来るつもりか?
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